小型乗用トラクタ用安全フレームの強度試験シミュレーション手法

要約

安全フレームの強度試験に関する評価を、汎用ソフトウェア(Ansys Mechanical 2019R3)を用いた構造解析シミュレーションにより行う手法である。実機試験無しに安全フレームの変形量や応力状態を評価でき、試作回数削減や、構造変更時の強度の推定に有効である。

  • キーワード : トラクタ、安全キャブ・フレーム、強度試験シミュレーション、CAE、有限要素法
  • 担当 : 農業機械研究部門・システム安全工学研究領域・予防安全システムグループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

安全キャブ・フレームは農用トラクタ(以下、トラクタ)の転倒時に運転者を防護するための構造物であり、その強度は、国際規格で定められた試験方法より、静的な実機を用いた破壊試験によって評価されている。しかし、実機を用いた破壊試験は、供試機の準備や運搬、人員等のコストが大きく、加えて小さな構造の変更等でも改めて試験が必要となる場合も多いため、機械メーカからはシミュレーションによる評価が求められている。そこで、将来的に公的な試験等での活用を見据え、構造解析シミュレーションによって安全フレームの強度を高精度に評価する手法を構築する。

成果の内容・特徴

  • 手法の開発に用いた安全フレームは、市販小型トラクタ(出力22.1kW、質量990kg)に装着され、フロア部分を含む一体構造かつ、車体への取付部(以下、マウント部)に防振ゴムを有する2柱式安全フレームであり、その主要部は一般的な構造用の鋼材で構成される(図1)。本手法では、安全キャブ・フレーム検査コードIIIに準じた試験のうち、トラクタ質量に応じたエネルギを与える水平負荷試験(後部と側部への負荷を順に付与)を実施可能である。
  • 本手法では、マウント部から上の安全フレームの形状(CAD)モデルを用い、主要部の材料特性に引張試験から得た数値を用いて静的な構造解析を行う。拘束はマウント部を完全固定、荷重は実機での負荷位置に水平方向の強制変位を与える簡易的な条件となっている(図1)。
  • 本手法では、横材と下部フレームの接合部(図1)及び後部マウント部周辺の溶接ビードの形状モデル、後部マウント部のストッパ材(防振ゴムと組合せて使用される)の形状モデル、防振ゴム(バネ要素)(図2)と折曲部ボルト・ピン及び後部マウント部ボルト(ビーム要素)の簡略モデルを用いたことが特徴である。特にストッパ材モデルには周辺部材との接触が考慮されているほか、メッシュを板厚方向に3分割(ストッパ材間の部材は4分割)としており、側部負荷時の特徴的な塑性変形を再現可能である(図2)。
  • 対象の安全フレームにおける実機試験との比較(負荷位置の荷重と変位)では、後部負荷において実機に対し変位-7.5%・荷重+2.9%の精度を持つ(図3)。側部負荷では荷重が実機に対し+27.5%と誤差が大きいが、マウント部の変形状況を良好に再現可能である。

成果の活用面・留意点

  • 本手法は開発に用いた安全フレームのみで検証がされたものである。なお、圧壊試験、前部負荷試験については適合性の検証がされていない。他の構造の安全フレームや安全キャブ、試験方法については実機試験結果との比較を含めた適合性の評価が必要である。
  • 現状、シミュレーションのみで安全キャブ・フレームの公的試験に適合することはできない。
  • 側部負荷での荷重の精度には改善の余地がある。また、後部負荷ではフェンダ部と周辺部材との接触の非考慮や簡略化した折曲部ボルトモデルが、側部負荷では、上側ストッパ材とボルトの位置関係の実機との微小差等が誤差に繋がる可能性がある。
  • 強度評価では、ボルトや溶接部、荷重条件等の簡略化された項目の影響も熟慮する必要がある。

具体的データ

図1 形状モデルと荷重条件,図2 後部マウントモデルと側部負荷時変形状況の比較,図3 後部負荷の荷重―変位曲線と変形時の形状(実機、シミュレーション)

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2019~2024年度
  • 研究担当者 : 原田一郎、冨田宗樹、松本将大、塚本茂善、井上秀彦、滝元弘樹
  • 発表論文等 : 原田ら(2025)農業食料工学会誌、87:152-154