高水分条件で播種可能な畝立て乾田直播機

要約

暖地二毛作の乾田直播栽培で、表面が硬い台形断面状の播種畝を成形しながら畝の天面に播種することで、圃場の漏水防止、降雨・滞水に伴う種子の酸欠防止を図る播種機である。降雨後の灰色低地土において、通常では播種できない塑性限界より10%高い水分条件でも播種可能である。

  • キーワード:暖地二毛作、乾田直播、畝立て直播機、高水分条件
  • 担当:九沖研・暖地水田輪作研究領域・スマート水田輪作グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

水稲の乾田直播栽培は、規模拡大が進む九州北部地域において作業能率の向上が期待できる有用な技術である。しかし、水稲-麦類-大豆-麦類の二毛作体系では、代かきに相当する乾田漏水防止対策および播種の期間が短いため、高能率かつ天候や湿田に左右されにくい乾田直播技術が必要である。特に、圃場が乾きにくい地域では、降雨によって播種作業とその後のローラ鎮圧作業(漏水防止対策)が遅れるため、規模が大きい農家ほど適期播種を逃すリスクが高まることから、高水分条件で使用可能な直播技術が不可欠となる。
そこで、水田輪作50haの大規模農家を対象に、漏水防止機能を有し、降雨後の高水分条件や半湿田条件でも効率的に播種作業が可能な畝立て乾田直播機を開発する。

成果の内容・特徴

  • 開発機はトラクタの後方に装着し、土壌反転ディスクを利用した畝成形補助部でタイヤ跡を均し、ソロバン玉状の回転・駆動する畝成形部で表面が硬い台形状の播種畝を成形して圃場の漏水防止を図り、直播作業部、種子繰出部および覆土鎮圧部で畝の天面に播種することで、生育初期の降雨・滞水による湿害回避を図る構造である(図1)。
  • 開発機の直播作業部は、作溝ディスクの土付着防止スクレーパと作物残渣進入防止スクレーパ(図1)により、高水分かつ麦作後の作物残渣が多い圃場条件において播種作業が可能になる。
  • 開発機は、水稲以外に大豆や麦類播種にも対応し、作業幅:210 cm、条間:30cm、条数:7で、適用トラクタサイズは40~60 PS(29.4~44.1kW)である。
  • 開発機は、灰色低地土圃場(熊本県玉名市)において、播種2週間前から播種前日までに214mmの降雨があり、通常では播種できない塑性限界より10%高い水分条件(42%)でも播種作業が可能である(図2)。
  • 開発機は播種直後から2日目にかけ約80 mmの降雨(図2)に見舞われても、湿害等は確認されず苗立率は9割程度確保できる(図3)。
  • 開発機は、作業速度3.5 km/hで作業能率12 min/10a(圃場作業効率70%)程度になり、1日6 時間で3 ha播種した場合、25 ha(水稲転作率50%)は約8日で終了する。
  • 開発機の坪刈収量(kg/10a:品種「ヒノヒカリ」)は、試験場内(福岡県筑後市)および現地圃場(熊本県玉名市)において(畝立直播区:541±20、慣行移植区:562±35)および(畝立直播区:531±59、慣行移植区:483±46)となり、移植と同等の値が得られる(図4)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:半湿田(乾きにくい)地域の水田輪作を実施する50~100 ha規模の農業経営体。
  • 普及予定地域・普及台数:九州を中心に5年間で1000 ha、50台程度普及すると見込まれる。
  • その他:2021年度中に市販化予定。SOP(NARO方式乾田直播-九州地方版)に追記する。

具体的データ

図1 畝立て乾田直播機の構成と主要諸元,図2 現地圃場(塑性限界:32%)における播種作業と播種直後の降雨後の状況
塑性限界:通常の播種作業が可能な土壌水分の上限値,図3 現地圃場(図2と同一)の苗立状況,図4 収量の比較(ヒノヒカリ)各2圃場の平均値(2021年度)

その他

  • 予算区分:その他の外部資金(農業機械技術クラスター)
  • 研究期間:2018~2021年度
  • 研究担当者:深見公一郎、高橋仁康、中野恵子、西村修(I-OTA)、淺野和人(I-OTA)、関英一(I-OTA)、國廣愛彦(I-OTA)
  • 発表論文等:
    • 深見ら「播種畝成形直播機」特許第6754928号(2020年8月27日)
    • 深見公一郎(2019)農作業研究、54:201-208
    • 深見ら、特願(2020年9月24日)