食肉で'氷点下の未凍結貯蔵'を行うための温度設定値の下限は-1.0°Cを推奨する

要約

ウシ45頭、ブタ10頭、ニワトリ12羽を用いて、骨格筋の凝固点を調べたところ、家畜種別の平均値はウシが-1.12°C、ブタが-1.15°C、ニワトリが-1.12°Cである。従って、氷点下の未凍結貯蔵をこれらの食肉に適用する場合、貯蔵庫の下限温度設定値は-1.0°Cを推奨する。

  • キーワード:氷点下の未凍結貯蔵、牛肉、豚肉、鶏肉、凝固点
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・暖地畜産研究領域・肉用牛生産グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

'氷点下の未凍結貯蔵'は食品の凝固点から0°Cまでの温度域で貯蔵する技術である。食肉の場合、凝固点は-1.0°Cから-1.5°C付近にあると考えられるが(Food properties handbook、Rahman 2009)、品種や骨格筋の種類、含まれる栄養成分の量との関係については明らかにされていない。
そこで、わが国で生産されるウシ、ブタならびにニワトリを用いて、骨格筋における凝固点の特徴を調べ、合わせて、家畜種や品種、含まれる栄養成分の量、未凍結状態での貯蔵日数の影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ウシの凝固点については、和牛(育成)が-1.05°C、同(肥育)が-1.13°Cから-1.23°Cであり、一方、交雑牛(肥育)が-1.18°C、乳用牛(肥育)が-1.08°Cであり、栄養成分含量の違いはあるが、品種、骨格筋の種類や経過日数の影響は認められない(表1)。
  • ブタの凝固点については、三元交配豚(肥育)では-1.10°Cから-1.17°Cであり、銘柄豚(肥育)では-1.15°Cから-1.20°Cであり、栄養成分含量の違いはあるが、品種、骨格筋の種類や経過日数の影響は認められない(表2)。
  • ニワトリの凝固点については、ブロイラー(肉用)では-1.00°Cから-1.22°Cであり、地鶏(肉用)では-1.05°Cから-1.20°Cであり、栄養成分含量の違いはあるが、品種、骨格筋の種類や経過日数の影響は認められない(表3)。
  • 家畜種別の凝固点の平均値と標準偏差は、ウシが-1.12±0.14°C、ブタが-1.15±0.12°C、ニワトリが-1.12±0.16°Cであり、全検体(n = 103)の平均値は-1.13±0.14°Cである。従って、氷点下の未凍結貯蔵をこれらの食肉に適用する場合、技術的な温度設定値の下限は-1.0°Cを推奨する。

成果の活用面・留意点

  • 食肉加工および食肉流通事業者が利用するための基礎データとなる。
  • 貯蔵を行う機器は、(公社)氷温協会によると食肉内の温度誤差が±0.5°C以内(周囲温度が-10°Cから+30°C)になる保管庫が望ましい。また、使用する機器のドア開閉に伴う温度変化に注意する必要がある。
  • '氷点下の未凍結貯蔵'と'氷温(商標登録 第1487248号、株式会社氷温研究所)'は同義語であるため、商品名として用いる場合は留意する必要がある。
  • 牛肉については-1°Cで108日間の貯蔵を行っても、筋肉組織に氷晶核形成による細胞破壊は観察されないことを確認済みであるが(中村ら2020)、豚肉と鶏肉については検証中である。

具体的データ

表1 ウシの凝固点、栄養成分含量ならびに屠畜からの経過日数の比較,表 ブタの凝固点、栄養成分含量ならびに屠畜からの経過日数の比較,表3 ニワトリの凝固点、栄養成分含量ならびに屠畜からの経過日数の比較

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2020~2021年度
  • 研究担当者:中村好德、福間康文(公社 氷温協会)、細見亮太(関西大)、細田謙次
  • 発表論文等:中村ら(2022)日本暖地畜産学会報、65(1):3-8