サツマイモ基腐病抵抗性に優れる沖縄向け加工原料用かんしょ「おぼろ紅」

要約

かんしょ「おぼろ紅」は、沖縄での加工用主力品種「ちゅら恋紅」よりもサツマイモ基腐病に強く、同程度の上いも収量が得られる品種である。アントシアニン含量を示す色価は「ちゅら恋紅」よりも低いものの、食味が良く、混合ペーストを利用することで製品の風味や食味が改善される。

  • キーワード : かんしょ、サツマイモ基腐病抵抗性、沖縄向け、紅いも
  • 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地畑作物野菜研究領域・カンショ・サトウキビ育種グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

台風や干ばつなどの気象災害に強いかんしょは、沖縄県における重要な畑作物である。沖縄県産の紫かんしょは特に「紅いも」と称され、その色調を生かした加工ペースト菓子は土産品として人気が高い。しかしながら、2018年に沖縄県でサツマイモ基腐病(以下、基腐病)が確認され、沖縄県の主要品種で80%以上の栽培面積を誇る「ちゅら恋紅」の抵抗性が十分でなく、基腐病発生による県産原料いもの供給不足が新聞報道で取り上げられるなど、本病害に対する地域の関心が高まっている。そこで本研究では、「ちゅら恋紅」よりも基腐病に強く、「ちゅら恋紅」並みに多収で加工適性に優れる紫かんしょ新品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「おぼろ紅」は、沖縄県で古くから栽培されている在来品種「備瀬(びせ)」を母親とした自然交雑種子から選抜した品種である。塊根の形は"楕円形"で、表皮の主な色は"紫赤"、肉の主な色は"紫"、肉の主な色の濃淡は"淡"である(表1、図1A)。
  • 「おぼろ紅」は、慣行の春植え栽培において「ちゅら恋紅」と同等の多収で、「ちゅら恋紅」よりも基腐病に強く、抵抗性程度は"強"である(表1)。
  • 「おぼろ紅」は、害虫のゾウムシ類に対する抵抗性程度は"やや強"で、「ちゅら恋紅」より被害を受けにくい(表1)。
  • 「おぼろ紅」のペースト加工並びにタルトへの加工適性は、「ちゅら恋紅」と同程度である。ただし、アントシアニン色価は「ちゅら恋紅」よりも低いため、濃い紫色を特色とする紅いもタルトへの利用の際は、「おぼろ紅」に「ちゅら恋紅」を40から60%混合する必要がある。また、「おぼろ紅」はブリックスが高く、蒸しいもの食味が良いため、製品の風味や食味が改善される(表2、図1B)。
  • 「おぼろ紅」は栽培する土壌の種類によって肉色の色づきが異なる。ジャーガル土壌では島尻マージ土壌に比べアントシアニン色価が高くなる傾向にあるため、ジャーガル土壌での普及を予定している(図1C)。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 沖縄県内のかんしょ生産者、かんしょ加工事業者、普及指導機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 沖縄県中南部のジャーガル土壌地域を中心に 10ha。奨励品種として沖縄県が採用予定(2024年)。
  • その他 : サツマイモ基腐病に抵抗性であるが、全く罹病しないわけではないため、薬剤防除等の基腐病の一般的な対策との組合せを心がける。また、土壌の種類によって肉色の色づきが異なるため、ジャーガル土壌以外のかんしょ栽培地域では栽培上、留意が必要である。

具体的データ

表1 育成地(糸満市)における「おぼろ紅」の特性,表2 蒸しいもの食味および加工適性評価,図1 「おぼろ紅」の塊根特性

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業、国際競争力強化技術開発プロジェクト:輸出促進のための新技術・新品種開発)
  • 研究期間 : 2017年度~2022年度
  • 研究担当者 : 岡田吉弘、鈴木崇之
  • 発表論文等 : 岡田、鈴木「おぼろ紅」品種登録出願公表第36750号(2023年8月22日)