要約
かんしょ種イモに対して48°C・100分の蒸熱処理を行うことにより、萌芽に悪影響を及ぼすことなくサツマイモ基腐病菌( Diaporthe destruens )を消毒することが可能であり、苗床での本病害の発生を抑制することができる。
- キーワード : サツマイモ基腐病、蒸熱処理、かんしょ、種イモ消毒、萌芽
- 担当 : 九州沖縄農業研究センター・研究推進部・技術適用研究チーム
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
サツマイモ基腐病(以下基腐病)を圃場に持ち込まないためには健全種イモの確保が重要であるが、本病は無病徴感染するため、外観で種イモの健全性を判別することは困難である。そこで本研究では、50°C前後の飽和水蒸気の熱で種イモを消毒する蒸熱処理技術を開発する。蒸熱処理が種イモの腐敗や萌芽、並びに基腐病菌の生残に及ぼす影響を明らかにし、種イモに悪影響を及ぼすことなく効果的に消毒できる条件を策定する。さらに処理手順を注意点とともに標準作業手順書にとりまとめることで、現場での処理が適切に行われるようにする。
成果の内容・特徴
- 健全種イモを蒸熱処理する場合、庫内温湿度設定49°C/95%RHでは70分以上処理すると腐敗するイモが顕著に増加し、萌芽数が少なくなるのに対し、48°C/95%RHであれば腐敗するイモがやや増えるが、120分処理でも萌芽数は維持される(表1)。
- 基腐病菌を人工接種した見かけ上健全なイモ20個に対して蒸熱処理を行うと、47°C/95%RHでは110分以上、48°C/95%RHでは100分以上の処理で菌が再分離されなくなる(表2)。さらにイモ数を増やして48°C/95%RH・100分の蒸熱処理を行う場合、210個中202個で菌が分離されず、93.2~98.1%(95%信頼区間)の確率で消毒できることが期待される。
- 基腐病発生圃場で収穫した種イモに対して48°C/95%RH・100分の蒸熱処理を行うことで、萌芽に影響なく(データ無掲載)、苗床での基腐病の発生が無処理より96.3%減少した事例を示す(図1)。
- 48°C/95%RH・100分の蒸熱処理条件を種イモへの影響を最小化し効果的に消毒できる条件とし、種イモの熱ストレス低減と一斉加熱に必要な順化工程を含めた処理手順(図2左)を注意点とともに標準作業手順書(SOP)に取りまとめている(図2右)。
普及のための参考情報
- 普及対象 : かんしょ生産組合、農協、酒造メーカー。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 鹿児島県、宮崎県のかんしょ栽培地域(2022年度の作付面積は13,080ha)。普及台数:2023年までに11台導入済み。
- その他 : 図2の蒸熱処理の工程を実現でき、1回に480kg処理できる種イモ蒸熱処理装置が市販されている。種イモは基腐病未発生の圃場から収穫することを原則とし、健全なものを使用する。基腐病は貯蔵中に症状が進むことを考慮し蒸熱処理は収穫後早い時期に行うことが望ましい。蒸熱処理直後の種イモは表皮が柔らかく傷つきやすいので、輸送中の振動には注意する。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(戦略的スマート農業技術等の開発・改良)
- 研究期間 : 2021~2023年度
- 研究担当者 : 齊藤晶、野口雅子、荒川祐介
- 発表論文等 :