要約
パウチ法によるトウモロコシサイレージ調製時に接種したツマジロクサヨトウ2齢幼虫の生存率および卵塊からの孵化率は短期間で大きく低下する。サイレージ調製時に混入したツマジロクサヨトウが正常発酵したサイレージ開封時に生存している可能性は非常に低いと考えられる。
- キーワード : ツマジロクサヨトウ、飼料用トウモロコシ、サイレージ、幼虫生存率、孵化率
- 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地畜産研究領域・飼料生産グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
海外ではツマジロクサヨトウは主にトウモロコシに大きな被害を与えると報告されており、日本でも2019年の発生確認以降、大部分の被害が飼料用トウモロコシで報告されている。飼料用トウモロコシは草丈が2m以上に達するため、生育後半になると薬剤散布しても下位の茎葉まで薬液が到達せず十分な防除が困難である。そのため、ツマジロクサヨトウ発生時にはトウモロコシサイレージに幼虫あるいは卵が混入する可能性があるが、サイレージ中で生存できるかは明らかではない。
そこで、パウチ法によるトウモロコシサイレージ調製時にツマジロクサヨトウの若齢幼虫あるいは卵塊を原料草に接種し、サイレージ調製後の生存率および孵化率を明らかにする。
成果の内容・特徴
- サイレージの原料草となるトウモロコシにツマジロクサヨトウ若齢幼虫を接種し、パウチ法によるサイレージ調製の際に脱気すると、調製後の2時間貯蔵により生存率は28.3%となる。また、0.03%以上の乳酸が検出される24時間貯蔵後の脱気区、14日間貯蔵後の密封区および14日間貯蔵後の脱気区では幼虫の生存率は0%となる(図1、表1)。
- パウチ法によるトウモロコシサイレージ調製時にツマジロクサヨトウの卵塊を原料草に接種した新鮮区では、調製3日後の孵化率が0.05%になる(図2)。この孵化率は発酵したサイレージに接種したサイレージ区よりも低い。
成果の活用面・留意点
- トウモロコシのサイレージ原料草中にツマジロクサヨトウの幼齢幼虫あるいは卵が混入した際に正常発酵したサイレージ中では本種が生きたまま残存する可能性が低いことを示す科学的知見として利用できる。
- 試験に使用したツマジロクサヨトウ幼虫は2齢幼虫であるため、他の齢数における生存率については別途検討が必要である。
- パウチ法によるサイレージ調製による実験室規模の試験結果であり、ロールベールなど実規模のサイレージについては別途検討が必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 民間企業等(日本中央競馬会畜産振興事業)助成金
- 研究期間 : 2019~2020年度
- 研究担当者 : 林征幸、加藤直樹、眞田幸代、服部育男
- 発表論文等 : Hayashi M. et al. (2023) Japan Agricultural Research Quarterly. 57(4):289-298 doi.org/10.6090/jarq.57.289