要約
「日本短角種」の親子放牧時に、クリープフィーディングでビール粕サイレージを給与すると、子牛は放牧草、母乳に加えてビール粕サイレージを自由摂食でき、体重と体格の発育が促進される。一方、母牛は放牧草しか摂食できないため、過肥が避けられる。
- キーワード : 親子放牧、クリープフィーディング、電気牧柵、日本短角種、ビール粕サイレージ
- 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地畜産研究領域・飼料生産グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
親子放牧中の母子牛群に飼料を給与する場合、課題となるのが、母牛と子牛の間で必要とする飼料の栄養価が大きく異なる点である。子牛の良好な発育を確保するためには、CP(粗タンパク質)含量の高い高栄養飼料の給与が必要である。一方、母牛にとって高栄養の飼料は過肥による繁殖障害を招く恐れがある。そこで、寒冷地~温暖地で省力的に管理できるケンタッキーブルーグラス(Poa pratensis L.)優占放牧地において電気牧柵のポリワイヤー線を用いてクリープフィーディング(入口の高さを制限して子牛だけが通って、高栄養飼料を自由摂食できる飼養方法)を行えるようにする(図1)。本研究では、一般的に親子放牧で飼養される「日本短角種」の子牛に、嗜好性が高くCP含量も高いエコフィードであるビール粕サイレージ(TDN(可消化養分総量)含量69%、CP含量24%)をクリープフィーディングで給与する。今回は、雌子牛の親子を用いて放牧草、母乳、ビール粕サイレージの利用性と発育への影響を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 電気牧柵のポリワイヤー線を高さ125cm(母牛の十字部高より低く)で水平に1本張ると、母牛はポリワイヤー線を恐れて通過できないが、6月齢以下の子牛はポリワイヤー線の下を通過して、ビール粕サイレージを自由に摂食する(図1)。
- ケンタッキーブルーグラスは寒冷地(盛岡市)の放牧地においては放牧期間を通して優占し、草高30cm以下で管理された場合、TDN含量は62.3~68.1%、CP含量は11.7~24.2%である(表1)。
- 全ての子牛はビール粕サイレージを30日齢以内に摂食し始める。60日齢には放牧草の摂食と反芻が観察される。吸乳は親子放牧期間(180日齢まで)を通じて、全ての子牛で確認できる(図2)。
- 子牛1頭1日あたりのビール粕サイレージ給与量は、以下の採食量の式を目安に飽食にする。
y= 0.0088x- 0.6101
(y:ビール粕サイレージ乾物採食量、x:子牛の体重、r2 = 0.9409 p < 0.01)
- ビール粕サイレージを自由に摂食した子牛の90日齢以降の体重、180日齢の体高、体長、胸囲、腹囲、胸深、胸幅、腰角幅は、対照区に比べて有意に高い値を示す(表2)。
- ビール粕サイレージを給与することで、180日齢の雌子牛の体重は246.4kg、体高は106.0cmに到達し、無給与の場合に比べて体重は44.1kg、体高は3.4cm高い。給与区の180日齢の体重と体高は、日本短角種雌子牛の240日齢の発育値(日本飼養標準 肉用牛2022年版)を大きく上まわることから、子牛から育成期にかけて60日以上の飼養期間短縮が期待できる(表2)。
成果の活用面・留意点
- 親子放牧時に子牛の発育を促進したい場合に活用できる。
- ビール粕サイレージ以外の飼料で応用する場合、放牧草が十分にある状態でも子牛を誘引できる高い嗜好性と高いCP含量の飼料を用いる。
- 日々のビール粕サイレージ給与量は子牛の群構成が変わらなければ、前日の残飼の量を参考に調節するのが望ましい。子牛の群構成が大きく変わる場合は体重を基にして、前述の計算式を目安に給与する。子牛の体重測定の環境が無い場合は、体重推定尺(牛用)や体高による推定値を用いる。子牛の保定が困難な環境条件の場合は、日本飼養標準(肉用牛2022年版)の和牛の発育値を参考に、月齢による子牛の体重データを利用されたい。
- ビール粕サイレージの摂食時に子牛の闘争行動を回避するために、子牛の頭数分の飼槽もしくは十分な飼槽スペースを設けるのが望ましい。
- 本研究はビール粕サイレージを朝9時と夕方16時の1日2回給与した結果である。
- 母牛には電気牧柵が設置された放牧地やパドックで飼養された経験がある牛を用いる。
- クリープフィーディングによりビール粕サイレージを給与する最初の子牛1頭には、馴致が必要である。子牛の群の中に馴致された子牛が1頭いれば、その後の子牛は学習するため、馴致は必要ない。
- 本研究で用いたビール粕サイレージ(脱水・密封済)は、クラフトビール工場渡し1000L(約750kg、4円/kg FM)で入手した。輸送コスト10円/kg、「日本短角種」雌子牛1kgあたりの取引単価1500円/kgとして算出すると、ビール粕サイレージ給与の子牛は無給与の子牛に比べて約60000円/頭高い。
- 「日本短角種」は通常、夏山冬里方式で飼養され、季節繁殖による春子生産が行われる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(革新的技術開発・緊急展開事業:人工知能未来農業創出プロジェクト)
- 研究期間 : 2017~2020年度
- 研究担当者 : 池田堅太郎、小松篤司、東山由美、的場和弘
- 発表論文等 : 池田ら(2023)日草誌、69(2):45-50