特徴的な香味を有する焼酎の原料用かんしょ新品種「霧N8-2」

要約

かんしょ「霧N8-2」は、焼酎原料用の品種である。「霧N8-1」を原料とした焼酎と同様のマスカット様の香りを特徴とする焼酎を製造することができる。また「霧N8-1」よりもでん粉歩留が高く、サツマイモ基腐病に対しては「霧N8-1」並みに強い。

  • キーワード : かんしょ、焼酎、マスカット様香、サツマイモ基腐病
  • 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地畑作物野菜研究領域・カンショ・サトウキビ育種グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

焼酎用かんしょの主力品種である「コガネセンガン」の焼酎は、その風味や独特の甘味といった酒質が高く評価されている。その一方で、焼酎の香味に対する多様な消費者ニーズに対応するため、「コガネセンガン」とは異なる酒質を備えた焼酎製品の開発が進められている。「霧N8-1」を原料とする焼酎はマスカット様の香りを主体とする果実様香が強く、フルーティーな酒質であることから、焼酎需要拡大への貢献が期待されている。しかし、「霧N8-1」は「コガネセンガン」と比べて収量が低く、また、でん粉歩留が著しく低いため、芋焼酎醸造における費用対効果は高くない。そのため、「霧N8-1」と類似した酒質特徴を有しながら、さらに農業および醸造特性に優れた品種の育成が求められている。

成果の内容・特徴

  • 「霧N8-2」は、マスカット様の香りを主体とするフルーティーな酒質の芋焼酎が醸造可能な「霧N8-1」を母、インドネシアの在来種「90IDN-47」を父とする交配集団から選抜した品種であ る。
  • いもは"楕円形"で、皮色の主な色は"赤"、肉色は"黄白"である。条溝は"少"、皮脈は"無"、裂開は"少"で、「霧N8-1」よりも外観が優れる。萌芽性は"中"、貯蔵性は"易"である(図1、表1)。
  • 上いも収量は「コガネセンガン」より劣るが、5月植え標準栽培では「霧N8-1」並み、4月植え長期栽培では「霧N8-1」よりも優れる(表2)。でん粉歩留は「コガネセンガン」より2~4ポイント程度低いが、「霧N8-1」よりも5~6ポイント程度高く、でん粉収量は「霧N8-1」より標準栽培で1.3倍程度、長期栽培では4倍以上高い。
  • 「コガネセンガン」よりもサツマイモ基腐病に強く、抵抗性は「霧N8-1」並みの"やや強"、サツマイモネコブセンチュウ抵抗性は"やや強~強"、ミナミネグサレセンチュウ抵抗性は "弱"である(表1)。
  • 「霧N8-2」は、「霧N8-1」よりも二次醪アルコール度数が高く、醸造適性が優れる(表3)。「霧N8-2」の焼酎は、「霧N8-1」の焼酎と類似したリナロールを主体とするマスカット様の香りがするフルーティーな酒質であるが、微量香気成分であるモノテルペンアルコール類は「霧N8-1」よりも多く含まれており、香りが高い(表3)。

成果の活用面・留意点

  • 主に南九州かんしょ作地域で焼酎原料として活用を予定している(普及見込み面積200ha)。
  • サツマイモ基腐病には強いが、在圃期間が長くなると発病株が増えてくるため、基腐病対策マニュアル「サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策」(令和4年度版)に基づき、適切な防除対策を施す必要がある。
  • 本成果情報では、焼酎の特徴香成分であるリナロール、α‐テルピネオール、シトロネロール、ネロール、ゲラニオール、5成分をあわせたものをモノテルペンアルコール類としている。

具体的データ

図1 「霧N8-2」の塊根,表1 いもの形態、生態的特性および病害虫抵抗性 (2021~2022),表2 育成地における収量性,表3 焼酎醸造適性の評価 (霧島酒造株式会社 2020年)

その他

  • 予算区分 : 交付金、その他外部資金(資金提供型共同研究)
  • 研究期間 : 2018~2022年度
  • 研究担当者 : 小林晃、川田ゆかり、境垣内岳雄、末松恵祐、甲斐由美、伊川秀治(霧島酒造)、前田玲以弥(霧島酒造)、藤田剛嗣(霧島酒造)、中村優(霧島酒造)、大西真人(霧島酒造)
  • 発表論文等 : 小林ら「霧N8-2」品種登録出願公表第36872号(2023年10月5日)