茎枯病抵抗性のアスパラガス新品種「あすたまJ」

要約

アスパラガス新品種「あすたまJ」は日本固有種ハマタマボウキとの種間交雑により育成した世界初の茎枯病抵抗性品種である。茎枯病に対する高い抵抗性を有し、露地春どり栽培において、従来品種では収量がほとんど得られないような茎枯病多発生条件下でも高い収量性を示す。

• キーワード : アスパラガス、茎枯病抵抗性、種間雑種、ハマタマボウキ、プロトジオシン
• 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地畑作物野菜研究領域・施設野菜グループ
• 代表連絡先 :
• 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

茎枯病は、アスパラガスの露地栽培において大幅な減収や廃耕などの深刻な被害をもたらす難防除病害である。殺菌剤散布、あるいは罹病茎抜き取りやバーナーを用いた畝面焼却などの耕種的防除での対応にも限界がある。また、アスパラガス種内に抵抗性の育種素材がないため種内交配による抵抗性品種の育成は困難であった。そこで、近縁野生種との種間交雑により、これまで存在しなかったアスパラガス茎枯病抵抗性品種を育成し、その特性を明らかにする。

成果の内容・特徴

• 「あすたまJ」は、アスパラガス(Asparagus officinalis L.)と日本固有種のハマタマボウキ(Asparagus kiusianus Makino)との種間交雑により育成した品種であり、苗への接種検定及び茎枯病発生圃場での栽培のいずれにおいても、従来品種と比べて強い茎枯病抵抗性を示す(図1)。
• 「あすたまJ」は、殺菌剤散布を行わずに茎枯病が多発した露地春どり栽培において、従来品種の収量がほぼ皆無となる条件でも、高い収量性を示す(図2)。
• 「あすたまJ」は従来品種よりも、細い若茎(収穫物)が多数得られる(図3)。
• 「あすたまJ」のグリーンアスパラガスは、従来品種ではホワイトアスパラガスには含まれるがグリーンアスパラガスにはほとんど含まれない機能性成分であるプロトジオシンを豊富に含む(図4)。

成果の活用面・留意点

• 茎枯病以外の病害に対する抵抗性については未検討である。また、害虫に対する防除は必要である。
• 現地での実証栽培を含む栽培法の開発や細い若茎の需要の創出・拡大、種苗安定供給法の開発等を行い、2028年頃より本格的な普及に向けた種苗の提供を開始する予定である。
• 「あすたまJ」のグリーンアスパラガスに含まれるプロトジオシンはサポニンの一種であり、抗腫瘍作用、抗炎症作用などの効果を有していることが報告されている。
• 本品種は、香川県、東北大学、九州大学との共同育成品種である。

具体的データ

その他

• 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業、イノベーション創出強化研究推進事業)
• 研究期間 : 2015～2022年度
• 研究担当者 : 渡辺慎一、浦上敦子、池内隆夫(香川農試)、尾崎行生(九州大)、菅野明(東北大)、森脇丈治、柳井洋介、中村智哉(香川農試)、森充隆(香川農試)、西村文宏(香川農試)、佐野有季子(香川農試)、山地優徳(香川農試)、阿部大吾、松元賢(九州大)、地子立(道総研上川農試)、高濱雅幹(道総研上川農試)、長濱恵(道総研上川農試)、篠田光江(秋田農試)、酒井浩晃(長野野菜花き試)、三浦斗夢(長野野菜花き試)、向島信洋(長崎農林技セ)、内山拓郎(長崎農林技セ)、登野盛博一(沖縄農研)、根間光里(沖縄農研)、加藤智子(沖縄農研)、吉田泰((株)サカタのタネ)、尾崎弘幸((株)サカタのタネ)
• 発表論文等 : 渡辺ら「あすたまJ」品種登録出願公表第36754号(2023年7月19日)