要約
「吟のさと環1号」は、「吟のさと」のカドミウム(Cd)低吸収性同質遺伝子系統である。本品種を「吟のさと」に替えて栽培することにより、Cd基準超過米の発生防止が期待される。
- キーワード : イネ、カドミウム低吸収性、同質遺伝子系統、吟のさと
- 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地水田輪作研究領域・作物育種グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
2015年に品種登録されたカドミウム(Cd)低吸収性品種「コシヒカリ環1号」は、土壌中のCd濃度が高い地域を含めたどのような地域で栽培してもコメ中のCd濃度が非常に低く、Cd摂取の低減に寄与することが期待されている。しかしながら、「コシヒカリ」の栽培面積は全国の約3分の1に過ぎないため、他の主要な品種にCd低吸収性を付与し、より広範な地域での普及の準備を進めることが必要である。2007年に育成した酒米品種「吟のさと」は、2023年には関東以西で約120haに普及していると推定される。「吟のさと」を用いた吟醸酒は、海外でのコンテスト入賞を契機に輸出が拡大している。酒米についても食用米と同じCd基準値が適用されることから、Cd基準超過米発生リスクをできる限り低減するためにCd低吸収性の酒米品種が必要である。
そこで、Cd低吸収性の「吟のさと」の同質遺伝子系統を開発する。
成果の内容・特徴
- 「吟のさと環1号」は、「吟のさと」とCd低吸収性の「コシヒカリ」突然変異系統「lcd-kmt2(後の「コシヒカリ環1号」)」を人工交配したF1に「吟のさと」を4回連続戻し交配した後代から育成された、「吟のさと」のCd低吸収性同質遺伝子系統である。
- 「吟のさと環1号」のCd吸収性は「コシヒカリ環1号」並の"極低"である(図1)。
- 「吟のさと環1号」の福岡県筑後市における普通期移植栽培での出穂期と成熟期はともに「吟のさと」とほぼ同じで、暖地では「にこまる」並の"やや晩"に分類される。その他の稈長、穂長、穂数、いもち病抵抗性等の特性は、「吟のさと」とほぼ同じである。玄米千粒重がわずかに軽いこともあり、精玄米重もやや軽くなっている(表1)。
- 「吟のさと環1号」の中国地方の現地試験における普通期移植栽培での出穂期と成熟期はともに「吟のさと」とほぼ同じである。その他の稈長、穂長、穂数、精玄米重、玄米品質等の特性も、「吟のさと」とほぼ同じである(表1)。
成果の活用面・留意点
- 「吟のさと環1号」の栽培適地は関東以西である。
- 「吟のさと環1号」は白葉枯病に弱いため、常発地での栽培は避ける。
- 「吟のさと環1号」の玄米千粒重は「吟のさと」よりわずかに軽いため、搗精条件を調整しなければならない可能性がある。
- 「吟のさと環1号」の心白発現率は「吟のさと」よりやや低いため、麹の出来が異なる可能性がある。
- Cd低吸収性遺伝子osnramp5-2によりマンガンの吸収も抑制されるため、特に砂質等の地力の低い圃場ではごま葉枯病の発生に注意を要する。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業、イノベーション創出強化研究推進事業)
- 研究期間 : 2012~2023年度
- 研究担当者 : 田村克徳、黒木慎、片岡知守、中西愛、竹内善信、佐藤宏之、田村泰章、石川覚、安部匡
- 発表論文等 : 田村ら「吟のさと環1号」品種登録出願公表第36878号(2023年5月23日)