要約
畑地における「有機質資材の窒素肥効見える化アプリ(公開中)」に、水田における窒素無機化量予測機能と、リン酸およびカリの肥効予測機能を追加する。これにより、田畑における有機質資材を活用した減化学肥料栽培や有機栽培等の施用設計に幅広く対応することができる。
- キーワード : 有機質資材(家畜ふん堆肥)、肥効予測、ウェブアプリ、減化学肥料栽培
- 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地畜産研究領域・飼料生産グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
有機質資材由来の肥料成分を考慮した適正施肥技術の普及拡大を目的として、これまでに畑地用の窒素無機化量を推定するアプリを開発しWeb上で公開している。さらに、この取り組みを推進するため、水田への適用拡大やリン酸、カリの肥効予測機能を追加する改良を進め、その有効性を栽培実証試験により明らかにする必要がある。
成果の内容・特徴
- 本アプリは、Web上で、作物が利用可能な有機質資材由来の無機態窒素量およびリン酸、カリの肥効を試算するツールであり、農研機構の日本土壌インベントリーホーム画面から起動できる(公開は2024年12月)。ユーザーはまず「畑版」または「水田版」のアプリを入力画面上部の選択メニューで選択し、地図上から任意のほ場を指定することで、土壌特性値および気象データ(平年値)から自動計算された土壌温度および土壌水分の推定値が読み込まれる。次に有機質資材の種別を選択すると、有機質資材特性データベースから資材特性値(含水率や肥料成分値)の平均値が自動入力される(図1)。さらに、施用量、施用日、収穫予定日に加え、水田の場合は入水日を入力することで、有機質資材由来の無機態窒素量およびリン酸、カリ肥効の予測供給量が計算表示される(図2)。
- 北海道から沖縄までの16道県と連携して実施した水稲および畑作物を対象とした実証試験で、化学肥料のみを施肥した対照区の収量に対する、本アプリを用いた化学肥料減肥(平均41%削減)実証区の平均相対収量は109%となり、対照区と遜色ない収量が得られている(図3)。
- 有機水稲を生産する東北、九州地域の生産者を対象に、アプリを用いて施肥設計を行い、有機肥培管理において水稲を栽培したところ、一部の水田では施肥の適正化が図られ、玄米収量が改善する結果が得られている(9実証水田のうち5水田で平均105kg/10a増収、その他は同等)(図4)。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 有機質資材を利用して減化学肥料栽培などに取り組む生産者、普及指導機関。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国。
- その他 : ウェブアプリは無料で使用できる。有機質資材の種別を選択した場合、有機質資材特性データベースから資材特性値の平均値が自動入力されるが、特定の資材特性値を用いる必要がある場合には、デフォルト値を上書きすることで対応可能である。また、データベースに登録されていない資材を利用する場合は、「その他」を選択し、含水率、窒素、リン酸、カリ、ADSON値などの特性値を個別に入力することで、肥効を概ね予測することも可能である。ただし、アプリには複数の資材を同時に計算する機能がないため、有機質資材を混合して施用する場合は、資材ごとに個別に計算を行う必要がある。営農管理支援システム等を独自に開発する企業向けに、畑版、水田版ともにAPIをWAGRIに登録済みであり、有償で使用できる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(オープンイノベーション研究・実用化推進事業、戦略的スマート農業技術等の開発・改良)
- 研究期間 : 2022~2024年度
- 研究担当者 : 望月賢太、古賀伸久、高田裕介、滝本貴弘、熊谷聡(道総研中央農試)、谷川法聖(青森産技セ)、小野寺真由(岩手農研セ)、中川進平(秋田農試)、遠藤佳那子(茨城農総セ)、吉澤克憲(栃木農研セ)、窪田成美(群馬農技セ)、宮吉沙知(千葉農林総研)、髙橋萌会(神奈川農技セ)、栗林将也(新潟農総研)、大橋祥範(愛知農総試)、廣瀬亮太郎(滋賀農技セ)、平野温子(兵庫農総セ)、有吉真知子(山口農技セ)、平山裕介(長崎農技セ)、中川路晴香(鹿児島農総セ)、前上門陽(沖縄農研セ)、松尾一宏(佐賀農研セ)、国立卓生、船附稚子、片岡知守、三浦重典
- 発表論文等 :
- 古賀ら(2023)土肥誌、94:106-114
- Mochizuki K. and Koga N. (2024) Soil Sci. Plant Nutr. 70:225-232
- 古賀ら、特願(2024年12月2日)