要約
カンショ「こなみらい」は低温糊化性でん粉原料用新品種であり、「こなみずき」より多収ででん粉歩留が高く、サツマイモ基腐病抵抗性が"中"である。サツマイモ基腐病に"弱"の従来品種「こなみずき」に替わり普及することが期待される。
- キーワード : カンショ、サツマイモ基腐病、カンショでん粉、低温糊化性でん粉
- 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地畑作物野菜研究領域・カンショ・サトウキビ育種グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
2010年に育成したカンショ品種「こなみずき」は、低温糊化性でん粉と呼ばれる特徴的なでん粉が取れるでん粉原料用品種である。低温糊化性でん粉は「シロユタカ」などの一般的な原料用品種から取れるでん粉に比べて糊化開始温度が20°Cほど低いでん粉で、耐老化性および成形性に優れるという特長があることから、カンショでん粉の食品用途での利用拡大に貢献している。ところが「こなみずき」は2018年に国内で初めて発生したサツマイモ基腐病に非常に弱く、深刻な被害を受けたため、低温糊化性でん粉産業は存続の危機に立たされている。この状況を受け、本研究では「こなみずき」よりサツマイモ基腐病に強い低温糊化性でん粉原料用品種の育成を行う。
成果の内容・特徴
- 「こなみらい」は、低温糊化性でん粉を有する「九系297」を母、低温糊化性でん粉を有しでん粉歩留が高い「九系07267-175」を父とする交配集団から選抜した品種である。
- 塊根の形は"楕円形"で表皮の主な色は"白"、二次色は"桃"、肉の色は"白"である(図1、表1)。葉身の裂片の数は"3"で裏面のアントシアニン着色の大きさは"無又は極小"、新葉の表面の主な色は"紫褐"である。
- サツマイモ基腐病抵抗性は2年間の平均が"中"で、"弱"の「こなみずき」より優れ「シロユタカ」並みである(表2)。
- 育成地における上いも重は標準栽培で「こなみずき」比107%、長期栽培で「こなみずき」比109%と「こなみずき」より多収である(表1)。でん粉歩留は26%程度で「こなみずき」を1.5~2.0ポイント上回る。
- 「こなみらい」のでん粉は「こなみずき」と同様に低温糊化性であり(表1)、低温糊化性でん粉で認められる耐老化性および食品の食感改良効果を有する。「こなみらい」のでん粉は保管によって硬くなりにくく、耐老化性を示す(表3)。でん粉をゴマ豆腐の材料に用いた際、一般のカンショでん粉ではかたくぼそぼそとした食感で弾力が無くすぐに形が崩れるのに対し、「こなみらい」のでん粉ではぷるぷるとした柔らかい食感となる(表1)。
普及のための参考情報
- 普及対象 : カンショ生産者、でん粉メーカー、普及指導機関。
- 普及予定地域・普及予定面積 : 南九州のカンショ産地、100ha。
- その他 : サツマイモ基腐病には「こなみずき」より強いが、抵抗性は「シロユタカ」並みの"中"であるため、『サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策(令和4年度版)』(農研機構、2023年)を参照し、防除対策を徹底する。サツマイモ立枯病およびサツマイモ黒斑病に弱いため、適切な防除対策を実施する。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(食料安全保障強化に向けた革新的新品種開発プロジェクト)
- 研究期間 : 2012~2019、2021~2023年度
- 研究担当者 : 川田ゆかり、小林晃、甲斐由美、境垣内岳雄、境哲文、末松恵祐、髙畑康浩、吉永優、藤田敏郎
- 発表論文等 : 小林ら「こなみらい」品種登録出願公表第37292号(2024年5月23日)