加工にも青果にも適する沖縄向けサツマイモ基腐病抵抗性新品種「ニライむらさき」

要約

「ニライむらさき」はサツマイモ基腐病に抵抗性で、土壌型によらずアントシアニン色価が高く安定している。加工適性は「ちゅら恋紅」と同程度であるが、蒸しいもの食味が優れ、タルト製品の風味や食味の向上が期待されるほか、焼き芋などの青果用としても有望な品種である。

  • キーワード : カンショ、サツマイモ基腐病抵抗性、紅いも、青果用、土壌型
  • 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地畑作物野菜研究領域・カンショ・サトウキビ育種グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

台風や干ばつなどの気象災害に強いカンショは、沖縄県における重要な畑作物であり、特に「紅いも」と称される沖縄県産紫カンショは紅芋タルトなどの加工土産品としての人気が高く、インバウンド消費の拡大にも貢献している。しかしながら、2018年に確認されたサツマイモ基腐病(以下、基腐病)の影響等により県内のカンショ生産量が大きく減少し、行政、実需者から基腐病抵抗性品種の開発が強く求められている。農研機構は2023年に、多収で基腐病に強い特性を持ち、ジャーガル土壌を栽培適地とする「おぼろ紅」を育成し、現在、普及を進めている。一方で、「おぼろ紅」は県内カンショ産地に多い土壌型である島尻マージ土壌で栽培した場合のアントシアニン色価が低い傾向にあるため、島尻マージ土壌での栽培に適した新たな基腐病抵抗性品種の開発が求められている。そこで本研究では、「ちゅら恋紅」よりも基腐病に強く、島尻マージ土壌での安定生産が可能で、加工適性に優れ、かつ食味の良い紅いも新品種の育成を行う。

成果の内容・特徴

  • 「ニライむらさき」は、沖縄県で古くから栽培されている白皮・紫肉色の在来品種で比較的基腐病に強い「備瀬(びせ)」を母親とした自然交雑種子から選抜した品種である。塊根の形状は"卵形"で、表皮の主な色は"紫赤"、肉の主な色は"紫"である(図1)。
  • 現地試験を行った島尻マージ土壌での「ニライむらさき」の収量は、3年間の平均値では「ちゅら恋紅」にやや劣るものの、年次間差が小さく安定している。基腐病抵抗性程度は"強"で「ちゅら恋紅」よりも強く、いもの腐敗が少ないため、基腐病発生ほ場における健全いもの収量は「ちゅら恋紅」より多くなる。また、「ニライむらさき」の害虫のゾウムシ類による被害程度は"やや低"で、被害率は「ちゅら恋紅」より低い(表1、図2)。
  • 「ニライむらさき」のアントシアニン色価は土壌型の違いによる影響はほとんど無いが、ジャーガル土壌では島尻マージ土壌に比べ低収になる傾向にある。そのため、本品種は、島尻マージ土壌での栽培を推奨する(表1、図3左)。
  • 「ニライむらさき」のペースト、タルトへの加工適性並びにアントシアニン色価は「ちゅら恋紅」と同程度で、「ニライむらさき」単体での加工利用が可能である。また、「ちゅら恋紅」よりも蒸しいもが粘質で糖度が高く蒸しいもの食味が良いため、「ニライむらさき」を用いた紅芋タルト等では製品の食味や風味が向上するほか、焼き芋などの青果用としての利用も期待できる(表1、図3右)。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 沖縄県内カンショ生産者、カンショ加工事業者、普及指導機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 離島を含む沖縄県内のカンショ生産地域50ha。
  • その他 : ジャーガル土壌では収量性が劣るため、島尻マージ土壌での普及を予定している。基腐病に抵抗性であるが、全く罹病しないわけではないため、基腐病の一般的な対策との組合せを心がける。

具体的データ

表1 「ニライむらさき」の特性,図1 「ニライむらさき」の塊根の形状と肉色,図2 基腐病発生圃場における「ニライむらさき」の健全いもの収量と地上部の様子,図3 「ニライむらさき」の土壌型別アントシアニン色価とタルト、焼き芋への加工

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業、国際競争力強化技術開発プロジェクト)
  • 研究期間 : 2017~2023年度
  • 研究担当者 : 岡田吉弘、鈴木崇之、服部太一朗
  • 発表論文等 : 岡田ら「ニライむらさき」品種登録出願公表第37364号(2024年7月10日)