要約
イチゴ「堅しろう」は「さがほのか」より収穫開始日が早く、果実が硬く日持ち性に優れており、高糖度で果実品質が良い。複数地域で選抜され、暖地~温暖地で広域適応が可能な促成栽培向け品種である。
- キーワード : イチゴ、促成栽培、早生、果実硬度、果実品質
- 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地畑作物野菜研究領域・施設野菜グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
イチゴの促成栽培向け品種では、近年、夏秋期の高温を要因とする花芽分化の遅延が顕在化しており、その対策と高単価時期での販売が期待できる早生性が重要視されている。しかし、既存の極早生品種は日持ち性がやや劣り、長距離輸送や温暖期の出荷では果実の損傷等の問題が発生する。そのため、広域的な産地は形成されず、九州地域では早生で日持ち性がある「さがほのか」が普及品種となっていた。そこで、平成28年度から山口県、鳥取県、大分県ほかと早生で高品質なイチゴ品種の共同育種を開始し、「さがほのか」より早生で果実硬度などの果実品質に優れ、長距離流通が可能で広域栽培適性を有するイチゴ新品種を育成する。
成果の内容・特徴
- 極早生品種「かおり野」および「章姫」の交配に由来する10133-03を、果実品質に優れる「とっておき」と交雑した実生集団から選抜した一季成り性品種であり、促成栽培に適する。
- 草姿は"立性"で、草勢はやや強い。「さがほのか」に比べ葉柄は長く、葉面積は同等の大きさであり、果房長は長く、ランナーの発生数は「かおり野」並みである(表1)。普通促成栽培での開花始期は「かおり野」より6日遅く、「さがほのか」より7日早い10月27日頃である。早出し促成栽培における夜冷短日処理による花芽分化促進効果は高い(表2)。
- 普通促成栽培での収穫開始期は「かおり野」より8日遅く、「さがほのか」より9日早い11月27日頃である(表2)。頂果房花数は「さがほのか」と同等で(表1)、商品果の年内収量、2月末までの早期収量および4月末までの全期収量は「さがほのか」と同程度である(表2)。
- 平均果重は「さがほのか」より重く(表2)、果形は"円錐"、果皮色は"橙赤"、果肉色は"淡桃"、光沢は"中"、空洞は"極小"である(表3および図1)。糖度は「さがほのか」および「かおり野」よりやや高く、酸度は「かおり野」と同等である(表3)。香りの強さは"中"、食味は"良"である。果実硬度は「さがほのか」および「かおり野」より高く、日持ち性は良い(表3)。
普及のための参考情報
- 普及対象 : イチゴ生産者、普及指導機関。本品種は、農研機構九州沖縄農業研究センター、山口県農林総合技術センター、鳥取県園芸試験場および大分県農林水産研究指導センターと共同育成された系統であるが、利用許諾先・栽培地域の制限はない。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 中国・九州地域を中心に30ha。
- その他 : 炭疽病に罹病性のため、健全な親株から増殖を行うとともに、育苗期を含め防除に努める。普通促成栽培では収穫開始日が「かおり野」に準ずる早生であるが、夜冷短日処理などの早出し作型で栽培することも可能である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2016~2020年度
- 研究担当者 : 藤田敏郞、曽根一純、三角将洋、遠藤みのり、沖村誠、藤井宏栄(山口農林総技セ)、重藤祐司(山口農林総技セ)、黒田美沙子(山口農林総技セ)、日高輝雄(山口農林総技セ)、白岩裕隆(鳥取園試)、川口亜弓(鳥取園試)、佐藤郁(大分農林水研)、若林美里(大分農林水研)、信貴素子(大分農林水研)、田中とも子(大分農林水研)、小野紘平(大分農林水研)、山田晴夫(大分農林水研)、佐藤如(大分農林水研)
- 発表論文等 : 曽根ら「堅しろう」品種登録出願公表第37324号(2024年6月17日)