要約
「あきいいな」は、葉いもち、穂いもちの圃場抵抗性がそれぞれ"かなり強"、"やや強"で、縞葉枯病抵抗性を有し、耐倒伏性が強い多収品種である。収量性は西日本の主力品種「ヒノヒカリ」より約2割高い。「あきいいな」導入により新規需要米の低コスト安定生産が期待される。
- キーワード : イネ、多収、新規需要米、いもち病圃場抵抗性、耐倒伏性
- 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地水田輪作研究領域・作物育種グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
主食用米の国内需要量減少にともなう需給及び価格の安定を図る対策の一環として、農地の有効利活用と農業所得の向上を図るため、米粉用や飼料用といった新規需要米向け多収品種の作付けが推進されている。これら多収品種は、肥料投入量を増やすことで一般品種より大幅に収量を増大させることが可能なため、品種の特性に応じて十分な施肥を行うことで生産コストが低減できる。しかし、窒素の多施用を行うと、いもち病などの病虫害や倒伏が発生しやすく、収量の減少、防除コストの増加、作業効率の低下が問題となる可能性がある。
そこで、耐病性、耐倒伏性に優れた多収品種を育成する。
成果の内容・特徴
- 「あきいいな」は、中生で耐倒伏性が強く多収の飼料用系統「飼45」と、晩生で耐倒伏性が強く耐病性で多収の主食用品種「たちはるか」を交配した後代から育成された、中生で耐倒伏性、耐病性をそなえた多収品種である。
- 「あきいいな」のいもち病圃場抵抗性は、葉いもちは"かなり強"、穂いもちは"やや強"である(表1)。また、縞葉枯病には"抵抗性"である。
- 福岡県筑後市における粗玄米重は66.9kg/aで「ホシアオバ」に近く、「ヒノヒカリ」より約20%多い(表2)。
- 福岡県筑後市における普通期移植栽培での出穂期、成熟期はほぼ「ヒノヒカリ」並で、暖地では"中"に分類される(表2)。稈長は100cm程度と「ホシアオバ」と同様に長く、穂長も「ホシアオバ」と同様で、穂数は「ホシアオバ」並かやや多い。
- 山口県山口市における普通期移植栽培での出穂期、成熟期はほぼ「あきだわら」並で、稈長および穂長は「あきだわら」より長く、穂数は「あきだわら」より少ない。倒伏は「あきだわら」より少なく、粗玄米重は66.1kg/aで「あきだわら」よりやや多い。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 水稲生産者および実需者。
- 普及予定地域・普及予定面積 : 栽培適地は暖地および温暖地西部の平坦地。2024年に山口県の飼料作物奨励品種に採用され、2025年から同県内の一部地域で普及が始まり、その後段階的な普及の拡大が見込まれる。
- 「あきいいな」は「需要に応じた米の生産・販売の推進に関する要領」(農林水産省)において2024年産から多収品種に指定されている。
- 「あきいいな」は多肥栽培に適しているが、極端な多肥は、いもち病などの病害虫の発生や倒伏のおそれがある。穂いもち圃場抵抗性は"やや強"であるが、穂いもちの多発が予測される場合は、予防的に薬剤散布を行うなどの防除実施を検討する必要がある。また、白葉枯病抵抗性が不十分なため、常発地での栽培は避ける。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2010~2022年度
- 研究担当者 : 田村克徳、片岡知守、中西愛、竹内善信、田村泰章、佐藤宏之、坂井真、中西愛、黒木慎
- 発表論文等 : 田村ら「あきいいな」品種登録出願公表第36879号(2023年9月25日)