要約
「こはく二条」はうるち性の二条皮麦で、播性の程度が"IV"の秋播性であるため冬の間に幼穂や茎の生育が過度に進まず、中国・九州地域の高冷地で問題となる冬から春先の凍霜害を受けにくい。また、既存の春播性の二条皮麦品種と比べて、成熟期が同程度に早く、収量が同程度から多い。
- キーワード : 大麦、秋播性、茎立期、凍霜害、早生、多収
- 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地水田輪作研究領域・作物育種グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
焼酎の醸造に用いられることが多い二条大麦は、加工業者から増産が強く求められている。その対応策の一つとして、加工業者の拠点に近い中国・九州地域の高冷地での作付拡大や単収増加が挙げられる。しかし、国内で現在普及している二条大麦品種は分げつ期に低温に当たらなくても幼穂を形成する春播性であるため、高冷地で栽培すると冬の間に幼穂や茎の生育が進み過ぎて冬から春先の凍霜害により減収しやすく、高冷地での安定生産に適した二条大麦品種がないことが課題であった。
そこで、分げつ期に一定期間の低温に当たってから幼穂を形成する秋播性の性質を導入して、中国・九州地域の高冷地で栽培しても幼穂形成期および茎の伸長開始時期が現在普及している春播性の二条大麦品種より遅くて凍霜害を受けにくく、かつ多収の二条大麦品種を育成する。
成果の内容・特徴
- 「こはく二条」(旧系統名:「西海皮84号」)は、秋播性の「西海裸72号」を母親に、春播性で早生、多収の「西海皮69号」(のちの「はるか二条」)と、同じく春播性で良品質の「九州二条24号」とのF1を父親として、2013年4月に人工交配を行い、派生系統育種法により育成された秋播性のうるち性二条皮麦である。
- 広島県の高冷地(世羅郡世羅町。標高約420m)では、現地で普及している春播性の「サチホゴールデン」と比べて、早播き、適期播きのいずれでも茎立期が遅く、凍霜害の発生が少ない(表1、図1)。また、出穂期が5~6日遅いが成熟期が同程度で、整粒収量が早播きで約5割、適期播きで約2割多い(表1)。
- 熊本県の高冷地(阿蘇市。標高約500m)では、凍霜害の発生が春播性の「はるか二条」と比べて少なく、現地で普及している春播性の「はるしずく」と同程度である(表1)。また、「はるか二条」および「はるしずく」と比べて、出穂期が1~2日遅いが成熟期が2日早く、整粒収量が約1.5割多い(表1)。
- 福岡県の平坦地(筑後市(育成地)。標高約10m)では、春播性の「はるか二条」、「サチホゴールデン」、「はるしずく」と比べて出穂期が2~7日遅い(表2)。一方、成熟期が極早生の「サチホゴールデン」と比べて4日遅いが、早生の「はるか二条」および「はるしずく」と同程度である(表2)。また、整粒収量が「サチホゴールデン」、「はるしずく」と比べて約1割多く、多収品種の「はるか二条」と同程度である(表2)。
- 播性の程度は"IV"で、秋播性である(表3)。穂発芽性は"中"である(表3)。オオムギ縞萎縮病抵抗性はI型、III型、V型に対して"極強"で、DNAマーカーによる判定はrym3、rym5のいずれも"抵抗性型"である(表3)。うどんこ病抵抗性は"極強"、赤かび病抵抗性は"中~やや強"である(表3)。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 大麦生産者および実需者。
- 普及予定地域・普及予定面積 : 栽培適地は暖地から温暖地の平坦地および高冷地。2024年播きから広島県の高冷地(世羅町。標高約350~450m)で一般生産者による栽培が開始され、数年後に100haまで面積が拡大される予定。
- 本品種は食用および焼酎用として育成したが、実需者からウイスキー用としての利用も検討されている。
- 成果の内容・特徴で記載した3地点の最寄りにある気象庁観測地点における12月から3月の月別の日最低気温の平年値は以下のとおりである。
[世羅町。標高350m]12月 : -1.1°C、1月 : -2.9°C、2月 : -2.6°C、3月 : -0.1°C
[阿蘇乙姫。標高487m]12月 : -1.4°C、1月 : -2.7°C、2月 : -1.8°C、3月 : 1.2°C
[久留米。標高7m]12月 : 3.6°C、1月 : 1.7°C、2月 : 2.5°C、3月 : 5.5°C
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、米麦改良協会(国内産麦の研究開発支援事業:耐病性に優れ安定多収で、高品質で加工適性に優れる精麦用大麦・裸麦品種育成に向けた有望系統の開発)
- 研究期間 : 2012~2024年度
- 研究担当者 : 平将人、谷中美貴子、中田克、清水浩晶、中村和弘、松中仁、境哲文、杉田知彦、塔野岡卓司、西尾善太、河田尚之、荒木均、藤田雅也
- 発表論文等 : 平ら「こはく二条」品種登録出願公表第37189号(2024年4月22日)