サトウキビ育種へのBLUP法導入および歴代育種データの活用による交配設計の効率化

要約

系譜情報と後代集団の表現型データから交配親の遺伝的能力(育種価)を推定するBLUP法を国内サトウキビ育種に導入する。BLUP法により過去の育種データを解析することで、交配親候補の品種・系統におけるBrixなど主要形質の育種価や特定組合せ能力を推定でき、交配設計を効率化できる。

  • キーワード : BLUP法、育種価、交配設計、サトウキビ育種、特定組合せ能力
  • 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地畑作物野菜研究領域・カンショ・サトウキビ育種グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

国内のサトウキビ育種では膨大なデータの蓄積があるが、その総合的な活用法が十分に確立されておらず、交配設計は主に育種担当者の知識と経験に基づいて行われている。一方で、豪州やブラジルなどの海外のサトウキビ育種機関では、家畜育種において個体の遺伝的能力の評価に用いられる数理学的手法であるBLUP(Best Linear Unbiased Prediction : 最良線形不偏予測)法により、系譜情報と後代集団の表現型データからサトウキビの交配親が有する任意の形質に関する遺伝的能力(育種価)や組合せの効果(特定組合せ能力)を数値化し、交配設計等に活用している。
そこで、本研究ではBLUP法を国内のサトウキビ育種に初めて導入し、これまでに蓄積してきた育種データを解析して交配親候補の品種・系統における重要形質の育種価および特定組合せ能力を推定するとともに、推定結果の妥当性を検証して、交配設計の効率化に向けた有効性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本研究において作成したサトウキビ系譜情報は、九州沖縄農業研究センター種子島研究拠点における過去の実生選抜試験に供試した個体の交配親を中心とする1239品種・系統の血縁関係から構成される。
  • BLUP法による解析で使用する線形混合モデルは以下の通りである : y = μ + Zaα + ZsS + ZgG + ZfF + ε.ここで、yは表現型値(Brixデータ)、μは全体平均、αは育種価(変量効果)、Sは特定組合せ能力(変量効果)、Gは年次の効果(固定効果)、Fは圃場の効果(固定効果)およびεは残差を表すベクトルであり、Za、Zs、Zg、Zfはそれぞれ、表現型値と各効果ベクトルとの対応関係を示す行列である。本モデルを基に、系譜情報を組み込んだ混合モデル方程式(図1)を構築し、制限付き最尤法(REML)を用いて解析することで、育種価と特定組合せ能力の推定値が算出される。
  • 種子島研究拠点において2006~2021年に実施した実生選抜試験の供試個体のうち、系譜情報が明確な1082組合せ、41991個体のBrix(蔗汁中の可溶性固形分の割合であり、糖度の指標)の測定値を用いて上記2により推定されるBrixの育種価は、高糖性の品種・系統では高く、種間雑種系統では低いなど育種担当者の経験に合致する値を示す(図2)。加えて、BLUP法では詳細な育種価が得られるため、高糖性品種・系統の中でもより効率的な高糖性の改良が期待できる交配親を選択できる。また、特定組合せ能力の推定値が得られるため、育種価とともに交配組合せも考慮して有望な交配組合せを選定できる(図2)。
  • 解析対象に含まれない年の実生選抜試験に対しても、交配親の系譜情報が既知であれば、交配組合せ別のBrix水準を両親の育種価の平均値から予測できる。2022年の実生選抜試験を対象とした事例では、実測した組合せ別のBrix平均値と予測値との相関係数は0.857と高く、0.1%水準で有意である(図3)。
  • Brix以外の形質についても複数年の表現型データと系譜情報が利用可能であれば、同様にBLUP法により育種価を推定できる。例として、過去4回実施し、延べ77組合せ、4387個体を供試した組合せ検定試験における仮茎長、茎数、茎径のデータから推定した各形質の育種価を示す(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 沖縄県など国内の他のサトウキビ育種機関のデータに対してもBLUP法が適用可能である。
  • 交配親および交配組合せを基にBrix等の水準が予測できるため、実生選抜試験への供試組合せを厳選でき、圃場面積や調査労力の削減も可能である。
  • 現行の実生選抜試験では調査労力の制限からBrix以外の形質の実測値を得ることが困難であるが、ドローン画像解析などを通じて表現型データを効率的に取得できれば、草高や植被率などバイオマス生産性の指標となる形質についても育種価の推定が可能になる。

具体的データ

図1 2006~2021年の実生選抜試験に基づく解析で用いた混合モデル方程式,図2 BLUP法により推定したBrixの育種価(左)および特定組合せ能力の事例(右),図3 2022年の実生選抜試験における組合せ別のBrix平均値と、2006~2021年の実生選抜試験におけるBrixデータから推定した両親の育種価の平均値との関係,表1 組み合わせ検定試験のデータを基にBLUP法で推定した収量関連形質別の育種価上位10品種・系統

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2021~2025年度
  • 研究担当者 : 服部太一朗、樽本祐助、梅田周、大久保めぐみ
  • 発表論文等 : Hattori T. et al. (2026) Sugar Tech 28:290-298
    doi.org/10.1007/s12355-025-01678-z