人・農地プラン実質化の推進に活用できるAI農業経営体数予測モデル

要約

旧市町村単位での経営体の離農や、圃場単位での農地の貸出しに関する高精度な予測が可能なAI農業経営体数予測モデルである。本モデルを用いることで地域の農地需給の分析や、離農に伴い供給が見込まれる農地の予測やそのマップ化が可能となり、人・農地プランの実質化を支援できる。

  • キーワード:AI、人・農地プラン、営農継続確率、地域農業、担い手
  • 担当:基盤技術研究本部・農業情報研究センター・AI研究推進室・多変量解析ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

農林水産省が重点施策として進めている「人・農地プランの実質化」では、①耕作者の年齢や後継者の有無、農地の貸付希望や農地バンクの活用意向を把握し、②それに基づく地域の農地利用状況のマップ化、③5~10年後の農地を誰(中心経営体)に担ってもらうかを話し合うことになっている。しかし、耕作者の高齢化や地権者の地域外への他出などにより、市町村の農地政策担当者が地域農業の状況を詳しく把握することは困難になっている。そのため、AIを用いて、旧市町村単位での経営体の離農や圃場単位での農地の貸出しに関する高精度な予測を可能とする農業経営体数予測モデルを開発し、人・農地プランの実質化の取り組みを支援する。

成果の内容・特徴

  • 本モデルは、経営体における経営主年齢や後継者の有無、経営規模などの属性データから営農継続確率を予測するとともに、その予測結果を積み上げて、地域全体の農業経営体数や離農に伴う供給農地面積を推定することができる。また、離農に伴う供給農地面積の予測結果をもとに、農地需給の分析が可能である。さらに、農地情報がGIS化されている場合は、経営体の営農継続確率をこれと紐づけることによって、離農に伴い供給される可能性のある農地をマップ化することが可能となる(図1)。
  • 本モデルを用いると、農地需給を以下の手順で把握することができる。①地域(旧市町村など)における担い手の規模拡大希望面積(認定農業者の経営改善計画の拡大目標面積等)を積算することで農地の需要量を算出、②AI農業経営体数予測モデルにより地域の離農に伴う供給農地面積を予測(図2)、③農地の需要と供給面積を比較(図3)。なお、②については、Webアプリケーション化され提供されている。
  • 離農に伴い供給される可能性のある農地のマップ化は、以下の手順で実施できる。①農地利用に関するアンケート結果や農地基本台帳から、経営体の属性(経営主の年齢、経営耕地面積、後継者の有無など)と各経営体が耕作している農地の地番、それら地番が紐づいた農地の区画情報(筆ポリゴン)等を収集(図4①)、②経営体の属性データをAI農業経営体数予測モデルに入力して各経営体の営農継続確率を算出(図4②)、③各経営体の営農継続確率を各々が耕作している農地と紐づけることで圃場単位での営農継続確率を地図上で可視化する(図4③)。このように農地利用をマップ化することで、離農により供給される可能性が高い農地を面的に把握することが可能となり、人・農地プランに記載する農地の集約化方針の検討に活用できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:個人の営農や農地に関する情報を取り扱う手法であることから、人・農地プラン作成に関わる市町村、農業委員会などの公的機関の担当者に限定する。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国の市町村(現在、予測結果を岩手県内4市町村で活用)
  • その他:
    • 人・農地プランの実質化の話合いの際の参考資料や、担い手の規模拡大目標面積の見直しなどに活用できる。
    • 「離農に伴い供給される可能性のある農地のマップ化」により、人・農地プランの実質化の際の地域の農地利用状況を示すことが出来る。
    • 本モデルによる予測結果は、Webアプリケーション(https://raps.rad.naro.go.jp)を通じて提供する(農研機構のホームページからアクセス可能)。なお、利用は、当面、公的機関の担当者に限定し、利用者にはログインのためのIDとパスワードを付与する。また、基本的に利用者の所属する地域の予測結果のみを利用可能である。
    • 詳細な活用手順や岩手県での実証結果を示したSOP(標準作業手順書)を作成し、普及を進める。
    • 本モデルは、過去の農林業センサス個票データを学習し予測を行う。また予測は5年ごとに可能である(予測精度の観点から15年後までの予測を想定)。
    • 旧市町村とは、1950年2月1日現在の市区町村である。

具体的データ

図1  AI農業経営体数予測モデルを活用した地域農業の動向分析,図2  Webアプリケーションの予測結果表示画面の例
(離農に伴う供給農地面積等の予測値を取得可能),図3 農地需給の分析(岩手県のある旧市町村の例),図4 離農に伴い供給される可能性のある農地のマップ化手順

その他

  • 予算区分:交付金、文部科学省(科研費 18K14534)
  • 研究期間:2018~2021年度
  • 研究担当者:寺谷諒、安江紘幸、松本浩一、塩見岳博、森岡涼子、前山薫(岩手農研)、小向昌啓(岩手農研)
  • 発表論文等:
    • 寺谷(2020)食料農業工学会誌、82(3):204-208
    • 寺谷(2018)農研機構研究報告、1:3-11
    • 寺谷・塩見(2020)職務作成プログラム「農業経営体数予測値データベース及び農業経営体数予測API」、機構-Z05