野生イネ遺伝子の活用によって雑草の生育を抑制する新たな草型のイネ

要約

野生イネ遺伝子を活用して新たに作出したイネは、玄米品質や収量を変えることなく、雑草の生育を抑制する新たな草型(開張型)を有する。本成果は、水稲栽培における除草剤使用量の削減に貢献し、生産者にも環境にもやさしい新たなイネ品種の作出の基盤となる。

  • キーワード:遺伝資源、野生イネ遺伝子、草型、光利用効率、雑草抑制力
  • 担当:基盤技術研究本部・高度分析研究センター・生体高分子解析ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イネは日本のみならず、全世界で数十億人の主要な栄養源として栽培されている重要な作物であり、水田での雑草防除は除草剤の使用が一般的である。しかし、除草剤散布の労働負荷やコスト負担は大きく、また、過度な除草剤の使用は、環境への負荷が大きい。加えて、除草剤抵抗性雑草の出現リスクを高めるなど、現状の除草体系だけに頼ることには問題があり、水稲育種による高い雑草抑制力を有する品種の開発が求められている。
そこで、本研究では、栽培化の過程で失われて、これまで使われてこなかった遺伝資源の中から雑草との競合力に優れた遺伝子を探索し、新たな草型のイネを作出する。また、作出したイネの収量性や品質および雑草抑制力を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本研究で作出された新たな草型を示すイネ(以下、開張型イネ)は、タイで採取された野生イネ(Oryza rufipogon)のおよそ360kbpの染色体断片を持つコシヒカリで、成長初期には分げつが水平方向に伸長し、多分げつで開張する草型を示す(図1)。一方、幼穂形成期に入ると茎葉が直立するようになり、最終的には「コシヒカリ」と同様の直立した草型になる(図2)。
  • 開張型イネは、生育初期には葉が水平展開するため、「コシヒカリ」と比較して受光態勢に優れ、栄養成長が促進される(図3)。また、生育初期に開張することで、「コシヒカリ」と比較して早期に植被率(水稲群落が土壌を被覆する比率)が高まり、地表面は早い時期に被覆される。その結果、水稲群落下に差し込む光量は開張型イネ群落下で早期に低下し(データ略)、雑草の受光量は低下する。
  • 開張型イネの群落下で自然発生したノビエ(ヒメタイヌビエ)は、「コシヒカリ」群落下と比較して、茎数が抑制され、地上部乾物重も低下する(図4)。従って、開張型イネは「コシヒカリ」と比較して強い雑草の抑制効果を有する。
  • 開張型イネは、野生イネ染色体を保有するものの、「コシヒカリ」と同等の米の食味値、玄米品質、収量性を示す(データ略)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で用いた野生イネ染色体領域は、「コシヒカリ」以外の他の日本型の栽培イネ品種にも同様の形質を付与することが可能と考えられるため、西日本での栽培に適した品種や多収品種への導入を進めている。
  • 本研究で作出されたイネは耐倒伏性が低く、「コシヒカリ」と比較しても倒伏しやすい特性を有する。収穫時の作業性の面から耐倒伏性の向上は必須であり、開張型イネの実用化を進める上での今後の検討課題である。

具体的データ

図1 本研究で作出された新たな草型のイネ(開張型イネ),図2 生育期間中のイネの分げつの角度の推移,図3 イネ地上部乾物重および植被率の推移,図4 圃場に残草した自然発生のノビエの茎数および乾物重

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(イネのDNAマーカー育種の利用推進、直播栽培拡大のための雑草イネ等難防除雑草の省力的防除技術の開発)
  • 研究期間:2010~2021年度
  • 研究担当者:稲垣言要、浅見秀則、平林秀介、内野彰、今泉智通、石丸健
  • 発表論文等:Inagaki N. et al. (2021) Front. Plant Sci. 12:748531