モモせん孔細菌病の春型枝病斑の発生予測モデル

要約

モモせん孔細菌病の春型枝病斑を予測するため、階層ベイズモデルに基づく発生予測モデルを構築した。このモデルは、平均正解率84.7%の精度で発生予測ができるため、今後、迅速な防除計画策定に活用が期待される。

  • キーワード:モモ、せん孔細菌病、春型枝病斑、階層ベイズモデル
  • 担当:基盤技術研究本部農業情報研究センター・農業AI推進室・確率モデルユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

モモせん孔細菌病は葉、枝、果実に斑点およびせん孔を発生させるモモの主要病害であり、農業生産現場で深刻な被害をもたらしている。3~4月に枝に発生する病斑(春型枝病斑、図1)は本病の第一次伝染源として重要であるが、これまで発生予測技術がなく、予測に基づいた効率的、効果的な防除対策ができなかった。そこで、本病の過去の発生記録と気象データを活用し、階層ベイズモデルにより、本病の予測モデルを開発する。

成果の内容・特徴

  • 東日本の主要なモモ生産地の一つである福島県の病害虫防除所が公表している病害虫発生予察データ(2009~2020年の12年間、1年あたり13~18圃場を調査したデータで、合計183圃場)と気象庁のアメダスデータを用いて階層ベイズモデルを構築すると、当年4~5月に春型枝病斑が発生する圃場割合Pを導く予測式P = 1∕ {1 + exp[−(γ + 4.299 + 3.428D + 0.698W )]}が得られる(D = 前年9月に10%以上の葉で病斑が認められる圃場数、W = 前年10月における最大降水量10 mm以上かつ最大風速5 m/sの条件を満たす日数、γ = −8.086(圃場ごとの違いを示す変量効果)。
  • Receiver Operating Characteristic (ROC) 解析により、陽性と陰性を決める閾値を0.187にすると、The area under the ROC curve (AUC、ROC曲線で囲まれた部分の面積)は0.880となり、高い予測精度が得られる(図2)。予測モデルは正解率=0.836、再現率=0.804、特異度=0.847、適合率=0.683、F値=0.712の精度で予測できる(表1)。
  • モデル構築に用いるデータを4つのデータセットに分け、3つのデータセットでモデル構築し、残りに1つのデータセットで交差検証を行うと、予測モデルの平均正解率=0.847、平均再現率=0.727、平均特異度=0.889、平均適合率=0.704、平均F値=0.777の精度で予測できる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 本予測モデルを活用することで、3月~4月に農薬散布による防除を行う意思決定に資する。また、春型枝病斑の発生が多いと予測される場合、枝の剪定時に病斑の有無に注視して、本病の発生が疑わしい枝は切り取って圃場外に持ち出して処分する。
  • 本予測モデルは福島県の病害発生データを使って構築されているが、同じフレームワークを使って他県のデータで予測モデルを構築することが可能である。今後、各県の気象・栽培条件に合致した予測モデルが迅速に開発されることが見込まれるため、全国的なモモせん孔細菌病防除計画策定への貢献が期待できる。
  • 本予測モデルの構築に使用したデータ収集において、圃場調査は福島県内の一般モモ生産農家の圃場で調査を行った。1圃場あたりモモ3樹をランダムに選定し、1樹あたり30枝の病斑の有無を調査した。

具体的データ

図1 春型枝病斑,図2 Receiver Operating Characteristic (ROC)曲線,表1 ROC解析a によるモモせん孔細菌病春型枝病斑予測モデルの精度検証結果,表2 交差検証法によるモモせん孔細菌病春型枝病斑予測モデルの精度検証結果

その他

  • 予算区分:農林水産省(戦略的プロジェクト研究推進事業AIを活用した病害虫診断技術の開発、ならびに官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM))
  • 研究期間:2020年度
  • 研究担当者:川口 章、七海隆之(福島県農総セ果樹研)、山中武彦
  • 発表論文等:
    • Kawaguchi et al. (2021) J. Gen. Plant Pathol. 87(1) 41-47.
    • 山中ら、特願2020-207867(2020年12月15日)