オンライン共同編集サイトWikiによる植物病虫害情報の収集・整理とAPIによる情報提供
要約
農業現場から病虫害の生態や対処方法に関する知見をオンライン共同編集サイトWikiを通して収集・整理し、その情報と農薬情報を併せてWAGRI APIとして提供する。これらを病虫害画像自動AI判別サービスと組み合わせることで、生産者の病虫害特定を支援する。
- キーワード : 植物病虫害、防除、データベース、API、WAGRI
- 担当 : 基盤技術研究本部・農業情報研究センター・データ研究推進室
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
農業情報研究センターでは、2021年3月より病虫害画像自動AI判別器をWAGRI APIとして搭載することで、農業現場からの病虫害同定の問い合わせに迅速に回答するサービスを提供している。しかし、作物に被害を引き起こす病虫害が特定されても、その害虫がどのような生態(分布、発生時期等の情報)を持ち、どのように対応すればよいか(防除の可否、方法、農薬情報など)が分からなければ、サービスとして十分な機能を果たすことはできない。また、病虫害の生態情報や防除に関する知見は病虫害画像自動AI判別サービスのみならず、WAGRIから提供されている他の作物生育予測サービスや、今後提供が見込まれる病虫害発生予測サービスなどでも重要な付属情報となる。
そこで、植物病虫害に関する情報および農薬情報を提供するAPIをそれぞれ植物病虫害WAGRI小図鑑API、WAGRI農薬情報提供APIとしてWAGRI上に整備し、病虫害画像自動AI判別サービスに組み合わせて利用可能とする(図1)。
これにより、
- WAGRIを利用する民間事業者は本WAGRI APIを利用することで、自社のアプリに当該機能を容易に追加できる、
- 生産者がそれらのアプリを利用することで、自分の判断で病虫害を特定できるようにサポートする、
- 作物に対する病虫害被害の早期対応が可能になり被害軽減と農業生産の向上が見込まれる、
- 適切な対応を早期にとることで農薬使用量の削減が実現し環境負荷の低減が見込まれる、
など、日本の農業のスマート化を強力に推し進める基盤技術となることが期待される。
成果の内容・特徴
- 機構の病虫害専門家が機構内に設置したWikiにおいて病虫害情報を編集・整理する(図2)。
- 上記で整備された病虫害情報は、専門家によるピアレビューを経たのちに、WAGRI APIを通じてWAGRIを利用する民間事業者に無償で提供される。
- 12作目(イチゴ・キュウリ・ナス・トマト・モモ・ブドウ・ダイズ・ピーマン・ジャガイモ・カボチャ・タマネギ・キク)のべ400病虫害以上の情報が提供される。
- 農林水産省消費・安全局農産安全管理課農薬対策室から農薬登録情報提供システムによって提供される農薬情報が機構内のサーバに集約され、農薬工業会から提供された情報を元に作用機構分類(RACコード)を付与され、さらに病虫害と関連付けられ、WAGRI APIを通じて提供される。
- WAGRI APIを通じて取得された各情報は、WAGRIを利用する民間事業者が開発したアプリ上で表示できる(図3)。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 12作目(イチゴ・キュウリ・ナス・トマト・モモ・ブドウ・ダイズ・ピーマン・ジャガイモ・カボチャ・タマネギ・キク)の生産者がWAGRIを利用する民間事業者のサービス(アプリ)を通じて利用することを想定している。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国
- その他
- 病虫害小図鑑コンテンツWikiは機構内のサイトを通じて提供する。なお、サイトの閲覧・編集は公的機関の病虫害の専門家に限定し、申込みに応じてアクセス権を付与する。
- APIはWAGRI(https://wagri.naro.go.jp/)を通じて提供する。利用にあたってはWAGRIへの入会が必要である。
具体的データ
その他
- 予算区分 : 農林水産省(スマート農業技術の開発・実証プロジェクト)国際競争力強化技術開発プロジェクト
- 研究期間 : 2021～2022年度
- 研究担当者 : 桂樹哲雄、小林暁雄、中谷至伸、新井朋徳、井上広光、浦入千宗、遠藤信幸、大木健広、越智直、川口章、久保田健嗣、窪田昌春、河野勝行、櫻井民人、佐々木厚子、佐野正和、渋谷和樹、須崎浩一、逵瑞枝、土`田聡、冨高保弘、永坂厚、中山尊登、野口雅子、松下陽介、望月雅俊、山迫淳介、山中武彦、吉田めぐみ、吉松慎一
- 発表論文等 :
- Yamanaka et al., (2022) Pest Manag. Sci. 78(4):1573-1581
- 山中ら(2022)職務作成プログラム「農研機構AI病虫害画像診断API」、機構-ZC10