土壌中PFAS(ペルフルオロアルキル化合物)一斉分析マニュアル

要約

国内外でPFAS問題が深刻化し、土壌中のPFAS分析需要は極めて高い。本土壌中PFAS分析マニュアルは、土壌の採集から機器分析による定性・定量までの全工程をわかりやすく解説するとともに、優先度の高い30種のPFASについて正確かつ簡便な一斉分析を可能にする。

  • キーワード : POPs、LC-MS/MS、30種PFAS、高感度一斉分析法、土壌
  • 担当 : 基盤技術研究本部・高度分析研究センター・環境化学物質分析ユニット
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

ペルフルオロアルキル化合物(PFAS)は、「Forever Chemicals(永久に残る化学物質)」と呼ばれるほど残留性が高く、地球全体における汚染状況が深刻化している。これまで、水中に含まれる毒性が高いペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)の汚染問題が最優先の課題である。国内外において土壌中のPFAS汚染は極めて懸念される状態であるものの、多くの分析化学者にとって、多様で不均一な土壌試料は扱いにくく、サンプリング手法の統一性や理論的裏付けが不足しているため、海外で土壌汚染の実態調査が実施されてはいるものの、収集されたデータの検証や比較が困難な状況である。
そこで、土壌試料採集から抽出、精製、機器分析とデータ解析までの総合的な分析マニュアルを優先度の高い30種のPFASを対象として作成する。特に、土壌試料の扱いに不慣れな分析者やPFAS分析初心者にもわかりやすいマニュアルに加えて、ビデオ、イラスト付きの資料を作成する。これを世界共通のPFAS分析手法とすることにより、土壌中PFASの分析データ創出のための技術的基盤とする。

成果の内容・特徴

  • 本マニュアルは、土壌試料から30種類のPFASを、液体クロマトグラフ質量分析計装置(LC-MS/MS)によりpptレベルで一斉分析を可能にするためのものである。世界のPFAS問題の早期解決のため、無償で農研機構WEBサイトにて公開・配布する(図1)。
  • 本マニュアルは、PFASの内、毒性や社会的な懸念に基づき、優先順位の高い化合物30種類を分析対象に選定している。欧州食品安全機関(EFSA)と米国環境保護庁(EPA)が注目する化合物に加え、水のPFAS分析ISO規格手順(ISO 21675)と同様の化合物を対象にしていることから、既存の水や食品中に含まれるPFASに関する知見との比較が可能である(30種類のPFASの詳細は掲載マニュアルを参照、http:/www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/163753.html)。
  • PFAS分析法としては前例のない構成で、土壌試料の収集地点の選定、採集方法、前処理の方法から抽出、精製、濃縮までの全ての工程を詳細かつ分かりやすく記述している。この手法を世界に普及することにより、一貫性のある土壌中多成分PFASデータが得られ、データ間の比較や検証が可能となる(図1)。
  • PFAS分析に不慣れなユーザーにも高度な超微量分析の正確な操作が可能となるよう、試験装置や器具の扱いなどはビデオ、イラスト等のビジュアルを用いて分かりやすく解説している(図2)。
  • PFAS測定用の液体クロマトグラフ質量分析計装置(LC-MS/MS)のメーカー3社の協力により、各社主要機種における測定メソッドファイルを付録として掲載している。このため、ユーザーは、独自で新たに測定条件の検討、開発をする必要がなく、マニュアルに従って速やかに分析に着手できる(図3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 民間分析受託機関、大学等教育機関、国・自治体行政機関、分析機器メーカー、研究機関。
  • 普及予定地域 : 全世界
  • その他 : 本マニュアルの分析法の検証は、黒ボク土、低地褐色土、園芸培養土を用いて行う。それ以外の土壌への適用については別途検討が必要である。国連環境計画(UNEP)に提案し、国際的な標準分析方法として社会実装を目指す。分析対象の30種PFASのPFOS及びPFOAはPRTRの第一種特定化学物質に指定されており、扱いについては実施機関や実施者の注意が必要である。

具体的データ

図1 土壌中のPFAS30種類の一斉分析マニュアル(左)とマニュアルの構成(右),図2 ビジュアルで理解しやすいマニュアルの内容,図3 分析マニュアル作成に協力を得た測定装置メーカー及び各社から提供される
PFAS測定メソッドファイル

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(安全な農畜水産物安定供給のための包括的レギュラトリーサイエンス研究)
  • 研究期間 : 2022年度
  • 研究担当者 : 殷熙洙、谷保佐知(産総研)、矢吹芳教(大阪府立環境農林水産総合研究所)、小野純子(大阪府立環境農林水産総合研究所)、伴野有彩(大阪府立環境農林水産総合研究所)、岩田敏明(日本ウォーターズ)、鈴木悦子(日本ウォーターズ)、城代航(アジレント・テクノロジー)、滝埜昌彦(アジレント・テクノロジー)、岩佐奈実(島津製作所)、石岡航太(島津製作所)
  • 発表論文等 :
    農研機構(2024)「土壌に含まれるPFASの一斉分析暫定マニュアル~土壌採取から測定まで~」