安定同位体比質量分析計による固体分析の一斉分析法

要約

安定同位体比質量分析計に新たに開発した自動希釈装置を取り付けることにより、一回の測定で複数の元素の安定同位体比を高精度で求めることができる。

  • キーワード : 安定同位体比質量分析、元素分析、固体分析、安定同位体自然存在比、安定同位体標識
  • 担当 : 基盤技術研究本部・高度分析研究センター・環境化学物質分析ユニット
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

安定同位体比質量分析計(IRMS)による固体分析は、導入する試料の元素量によって測定値が真値からずれる量依存が起こりうることが知られている。これは、質量分析計(MS)に導入された各成分のイオン化効率が導入量に影響されるためである。このため、微小な安定同位体比の相違を正確に測定するために、従来のIRMS装置では2段階の分析を行う必要がある。1段階目では、元素分析計(EA)を用いて試料の元素量を計測し、2段階目の分析で最適となる試料量を求める。2段階目では、1段階目で決定した微量の試料を精密に秤量し、安定同位体比の精密分析を行う。これには高価な精密天秤を必要とし、また、作業者への負荷が極めて高い作業である。さらに、同一試料中の炭素と窒素、窒素と硫黄のように複数の元素の安定同位体比の正確な値を求める際は、両者の元素量に大きな差があるため、それぞれの最適量にあわせて試料を秤量し、複数回測定する必要がある。このため、分析機器の占有時間および分析コストの点で非効率である(図1左)。
そこで、本研究では、IRMS装置への試料の全導入量に関わらず、質量分析部に導入される元素量が一定となる自動希釈装置(以下、本装置とする)を開発し、IRMSに接続することにより、1回の分析で複数の元素の安定同位体比を同時計測するシステムを開発する。これにより、高精度を維持しながら、安定同位体比質量分析計による固体分析における試料調製を簡素化し、効率を飛躍的に向上させる(図1右)。

成果の内容・特徴

  • 本装置(図2)を用いた炭素窒素安定同位体比測定手順は以下の通りである。まず、MS分析部から開始信号をEA前処理部と本装置に送り、分析と記録を開始する。開始信号を受け取ったEA前処理部は試料を燃焼させ、CO2とN2に変換した後にクロマトカラムで両者を分離し、各元素量を熱伝導度検出器(TCD)で測定し、本装置に送信する。本装置はMS分析部へ導入される元素の量が一定に保たれるよう元素量に応じて希釈倍率を瞬時に算出し、ヘリウム流量を制御する(図3)。インターフェース部ではEA前処理部と本装置からのガスを混合し、MS分析部に送る。MS分析部では質量分析計で安定同位体比を測定する。
  • 希釈ガス流量は以下の式で表される。
    希釈ガス流量 = 試料流量×(試料ピーク高さ / 目標ピーク高さ - 1)
  • 目標とするIRMSピーク高さは、それぞれの試料について元素ごとに設定可能で、試料の元素量に関わらず意図したIRMSピーク高さが得られる。
  • 安定同位体比の分析値および分析精度は試料導入量に関わらず変化しない(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本装置の導入により、試料の精密な秤量が不要となる。
  • 複数の安定同位体比の測定を行う際に、複数回の分析が不要となる。
  • 希釈精度および最大希釈倍率は、使用するフローコントローラーの性能に依存する。
  • 試料を大量に導入すると不完全燃焼が起こり、安定同位体比の分析値が変化する可能性があるため、あらかじめ安定同位体比が既知の標準試料等で安定して測定できることを確認しておくとよい。

具体的データ

図1 改善されたIRMS安定同位体比測定手順,図1 改善されたIRMS安定同位体比測定手順,図3 試料導入量とシグナル強度の関係,図4 試料導入量と安定同位体比の関係

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2021~2022年度
  • 研究担当者 : 中島泰弘
  • 発表論文等 : 中島、鵜野、特願(2022年4月15日)