土壌中PFAS(ペルフルオロアルキル化合物)の残留・浸透・移行の動態

要約

土壌中のPFASの残留と移行形態を深さごとに調べた結果、パーフルオロカルボン酸類よりも水溶性が低いパーフルオロスルホン酸類は主に淡色黒ボク土の表層部(深さ45cmまで)に残留する。土壌及び浸透水中の多成分のPFAS動態は、PFASの環境中の挙動を理解する基礎的知見となる。

  • キーワード : 黒ボク土、ライシメーター、PFAS、PFSAs、PFCAs
  • 担当 : 基盤技術研究本部・高度分析研究センター・環境化学物質分析ユニット
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

「Forever Chemicals(永久に残る化学物質)」と呼ばれるペルフルオロアルキル化合物(PFAS)による汚染状況が全地球的に深刻化している。しかし、これまでのPFASについての研究は水質汚染に関連したものが中心であり、土壌中のPFASの成分ごとの残留形態および農業用水を介した土壌への浸透、移行に関する知見は極めて少ない。特に、炭素含量が高いという特徴を有し、世界的に見て稀な土壌である我が国の黒ボク土においては、PFASの挙動に関する研究は手付かずである。
そこで、黒ボク土を充填した人工水田(ライシメーター)の表層に計20種のPFAS模擬汚染水を添加し、ライシメーターの深さごとに土壌中の残留PFASと浸透水中のPFASを経時的に定性・定量することにより、個々のPFAS成分の挙動を明らかにするとともに、その情報からPFASの物理化学特性と環境中の移行動態特性を理論づける。

成果の内容・特徴

  • PFAS中、パーフルオロカルボン酸類(PFCAs)よりも水溶解性が低いパーフルオロスルホン酸類(PFSAs)は主に土壌の表層部(深さ45 cmまで)である淡色黒ボク土に残留する(図1、2)。
  • 土壌深度ごとの浸出液中のPFAS分布の経時変化から、水を介したPFSAsの浸透、移行は遅い一方、PFCAsはより速く地下へ浸透、移行する。すなわち、土壌と同様に浸透水でもPFCAsがPFSAsよりも移行しやすい(図3)。
  • PFSAs、ペルフルオロオクタンスルホンアミド(FOSA)、ペルフルオロオクタンスルホンアミドアセテート(FOSAA)は水溶性が低く、分子状で土壌炭素含量が高い表層部に強く吸着されている(図2)。一方、炭素数が比較的短いペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS、炭素数6)とペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS、炭素数8)の大部分は淡色黒ボク土層に吸着しているが、一部が約4か月をかけて下部まで移行する(図4)。
  • PFSAsは炭素含量が高い黒ボク土の表層部に強く吸着し、長期にわたって残留するので、地下への浸透移行は少ない傾向を示す。一方、PFCAsは水の縦浸透に伴う移動がPFSAsよりも容易であることから、土壌から地下水への二次移行が観測される。

成果の活用面・留意点

  • 土壌(黒ボク土)中の多成分のPFAS残留、移行に関する知見は農作物の栽培や地下水へのPFAS対策の基礎知見として有効である。高濃度のPFAS残留土壌の浄化の際、集中施工すべき土壌の深さの検討に活用する。
  • 本成果は黒ボク土のみの結果であり、異なる土性の土壌については、別途確認が必要である。
  • 本試験の結果は、模擬汚染水(総PFAS濃度=1,185,719 ng/L)を用いて人工水田で実施したものであり、一般水田環境の事例ではない。

具体的データ

図1 本試験に使用した人工水田,図2 人工水田の土壌中の残留PFASの分布,図3 人工水田の浸出液中のPFASの経時変化,図4 浸出液中のPFHxS及びPFOSの経時変化

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2015~2022年度
  • 研究担当者 : 殷熙洙、山﨑絵理子、Yu Pan(雲南省農業科学院)、谷保佐知(産総研)、登尾浩助(明治大)、山下信義(産総研)
  • 発表論文等 : Eun H. et al. (2022) Int. J. Environ. Res. Public Health 19:10379