要約
カイコ精巣の超低温保存方法を開発した。従来の緩慢凍結法で精巣を保存すると、ほとんど有効性が得られない。本成果はカイコ精巣の保存方法としてガラス化法の操作を可能にし、同手法が精巣のより良い保存方法となる可能性を示すものである。
- キーワード : カイコ、精巣、超低温保存、ガラス化法、アルミニウム製クライオプレート
- 担当 : 基盤技術研究本部・遺伝資源研究センター・資源保存ユニット
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
遺伝資源は安全で確実な保存が求められる。カイコでは卵巣と精子を用いた超低温保存方法が開発されている。しかし、雄側生殖質の保存に関しては人工授精など高い技術を要する操作があり、より簡便な保存方法の開発が期待される。雄側生殖質の保存に精巣が利用できれば、新たな保存方法となる。しかし、卵巣の場合とは異なり超低温処理した精巣の有効性はほとんど得られていない。
そこで本研究では、精巣を用いた超低温保存を可能にするために、従来、卵巣で用いられてきた緩慢凍結法とは異なるガラス化法による保存の可能性を検討する(図1)。
成果の内容・特徴
- カイコ精巣のガラス化は、処理にアルミニウム製のクライオプレートを使用することで精巣を傷つけることなく処理が可能である(図2中央)。
- 緩慢凍結法では有効性が得られない系統について、ガラス化法で超低温保存した場合は移植精巣の発達が確認できる(図2右)。
- 超低温保存した精巣を移植した宿主カイコの受精能力は、緩慢凍結法の場合に受精能力を有する個体が得られない系統でもガラス化法を用いることで50%の宿主カイコが受精能力を示す (表1)。
成果の活用面・留意点
- カイコは毎年継代飼育する必要があるが、飼育中にカイコ系統が混ざり、病気の蔓延等により消失する危険性がある。カイコ精巣の超低温保存が可能となれば、カイコの継代飼育を続ける必要性がなくなり、安全かつ確実に保存することが可能となる。
具体的データ
その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2020~2022年度
- 研究担当者 : 田中大介、福森寿善、藤井告(九大)、伴野豊(九大)
- 発表論文等 : Fukumori H. et al. (2022) J. Insect Biotechnol. Sericol. 91:13-19