要約
植物のナトリウム蓄積様式は放射性ナトリウムを使った画像解析により可視化できる。本成果はハマササゲ、ヒナアズキやヒメツルアズキなどのアズキ近縁種がそれぞれ独自の耐塩性機構を獲得したことを示すものである。
- キーワード : 耐塩性、遺伝資源、多様性、アズキ、Vigna属
- 担当 : 基盤技術研究本部・遺伝資源研究センター・植物資源ユニット
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
アズキの仲間であるVigna属は多様性の宝庫であり、環境ストレスに対して優れた耐性を示すものが多数存在する。農業上、もっとも深刻な被害をもたらす塩ストレスに対しても、複数のVigna属野生種(ヒメツルアズキ・ヒナアズキ・ナガバハマササゲ・ハマササゲ)が高い耐性を示す(文献によると、生育可能な塩濃度はアズキ50mM未満に対し、それぞれ、100mM、150mM、300mM、400mM)。また、それらは進化の過程で独立に耐塩性を獲得したと考えられる。
では、それらの野生種が獲得した耐塩性機構はどのようなものなのか。独立に類似した機構が進化したのか、あるいは互いに異なるやり方で耐塩性を発揮するのか。仮に後者だった場合、組合せ次第で野生種以上の耐塩性を作物に導入できる可能性がある。
そこで本研究では、放射性ナトリウムを使った画像解析により、それぞれの野生種が植物体のどの部位にナトリウムを蓄積するのかを明らかにする。
成果の内容・特徴
- 放射線可視化技術と放射性ナトリウムの使用により、植物体内におけるナトリウムの蓄積様式は図1のように鮮明な画像が得られる。
- 耐塩性を持たない栽培アズキは、ナトリウムが葉に流れ込んで枯れてしまう(図1左)。
- ヒメツルアズキはナトリウムを根でブロックし、葉に流れ込むのを防ぐ(図1左から2列目)。
- ヒナアズキはナトリウムが葉に蓄積するにもかかわらず、塩ストレスに耐えることができる(図1中央)。
- ナガバハマササゲはナトリウムを特定の葉にのみ流入させ、他の部位に流入するのを防ぐ(図1右から2列目)。
- ハマササゲは植物体内にナトリウムが取り込まれること自体を防ぐ(図1右)。
成果の活用面・留意点
- 野生種の耐塩性機構がどのような遺伝子によって支配されるのかが明らかになれば、作物にそれらを導入して耐塩性作物を開発することが可能になる。
- それぞれの野生種がもつ耐塩性機構が異なることから、複数の機構を組み合わせることで相乗効果が得られると期待される。すなわち、野生種以上の耐塩性を有する作物の開発に結びつく可能性がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)、農林水産省(ムーンショット型農林水産研究開発事業)
- 研究期間 : 2018~2022年度
- 研究担当者 : 内藤健、野田祐作(量研機構)、杉田亮平(名大)、廣瀬農(星薬科大)、河地有木(量研機構)、田野井慶太郎(東大)、古川純(筑波大)
- 発表論文等 : Noda Y. et al. (2022) Breed Sci 72:326-331