要約
耐塩性に優れた遺伝資源として有用なVigna属野生種の葉から、2種類のウイルスを単離することに成功した。本成果により、形質転換系の確立されていない耐塩性Vigna属野生種において、遺伝子機能を直接検証できるウイルスベクターの作出が可能になる。
- キーワード : 植物ウイルス、微生物遺伝資源、耐塩性Vigna属野生種
- 担当 : 基盤技術研究本部・遺伝資源研究センター・植物資源ユニット
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
ササゲやアズキに代表されるVigna属のなかには、環境ストレス耐性や病害抵抗性など、有用な形質を示す野生種が存在する。有用な形質を作物育種に効率よく利用するためには、その形質を制御する遺伝子を解明する必要があり、実際にいくつかの遺伝子が有力な候補として絞り込まれている。しかし、野生種では遺伝子の機能を検証する手段である形質転換系が確立されておらず、その確立には多大な時間と労力を要することが問題である。
この問題を解決する方策として、ウイルスベクターが挙げられる。ウイルスベクターを利用することで、外来遺伝子を植物ゲノムに組換えることなく発現させる、あるいは植物がもつ内在遺伝子の発現を抑制することができる。一方で、Vigna属野生種に利用可能なウイルスベクターを開発するためには、当該植物内で自律的に増殖し、全身に感染が拡大するウイルスを単離することが必須である。そこで本研究では、Vigna属野生種の自生地から、実際に感染しているウイルスを単離する。
成果の内容・特徴
- 沖縄県宮古島に自生する耐塩性Vigna属野生種(ヒナアズキ、ハマササゲ)の葉から、インゲンマメモザイクウイルス(Bean common mosaic virus : BCMV)とキュウリモザイクウイルス(Cucumber mosaic virus : CMV)を単離した(図1、2)。
- 単離したBCMVと CMVは、ヒナアズキとハマササゲに接種するといずれも感染し、全身で増殖するため、感染力を保持していることが確認された(図3)。これらのウイルスを改変することで、遺伝子機能の解明に有効なウイルスベクターを構築することが可能である。
- 単離したウイルスは、農業生物資源ジーンバンクから入手が可能となっている(BCMV: MAFF260300、CMV: MAFF260299)(図4)。また、ゲノム配列情報は公共データベースから公開している(BCMV: LC683377、CMV: LC683374~LC683376)。
成果の活用面・留意点
- 単離したウイルスを改変し、ウイルスベクターを構築することで、形質転換系が確立されていないVigna属野生種において、外来遺伝子を発現させる、あるいは内在遺伝子の発現量を抑制することが可能になる。これにより、野生種が示す有用な形質を制御する遺伝子の機能を解明することに繋がると期待される。
具体的データ
その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2019~2022年度
- 研究担当者 : 有賀裕剛、内藤健、一木珠樹
- 発表論文等 :