要約
国内広域におけるブドウ「巨峰」を対象として、1) 気温と発育の非線形な関係性、2) 日射量が発育に与える影響、及び 3) 発芽日のDay Of Year (DOY) と発育の関係性、を考慮する満開日予測モデルを提案する。発芽日からの予測精度は全国平均で2.54日であり実用可能なレベルである。
- キーワード : ブドウ「巨峰」、満開予測、出芽日のDay of year、有効積算温度、日射量
- 担当 : 基盤技術研究本部・農業情報研究センター・AI研究推進室・画像認識ユニット
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
ブドウの栽培管理では、ジベレリン処理や薬剤散布などの作業が満開日の前後に集中することから、満開日を事前に把握できれば作業計画の立案に資する情報となる。そこで、ブドウの主要品種である「巨峰」を対象とし、国内広域で利用可能な満開日予測モデルを開発する。本研究では、全国の公設試験研究機関での「巨峰」の発育データと、農研機構メッシュ農業気象データを利用して、任意の地点においてブドウの満開日を予測できるモデルを作成し、その有用性を示す。
成果の内容・特徴
- 全国14の公設試験研究機関(図1)におけるブドウの発育データに基づき、国内で利用可能な満開日予測モデルを開発する。
- 提案したモデルの特徴は、1) 気温と発育の非線形な関係性、2) 日射量が発育に与える影響、3) 発芽日のDOYと発育の関係性、を考慮していることである。予測の起算日は発芽日である。
- 本モデルでは、発芽日から満開日までの有効積算温度 (Effective Accumulated Temperature) EAT (°C・day)により満開日を予測する。EATは以下の式で表され、閾値 aを超えると満開日に至る;
EAT=ΣDi = 1 {Ti - (T0 - c × Si)}b × f (x)
(ただし、Ti < (T0 - c × Si)
のとき Ti - (T0 - c × Si) = 0)。
ここで、i は発芽日からの日数、Dは発芽日から満開日までの日数、Tiはi日の日平均気温 (°C)、T0は発育が進むのに必要な気温の閾値、Siはi日の日積算日射量 (MJ/m2) である。また、
f (x) = (x / 80)dであり、
x は発芽日のDOYである。ここで80は、用いた発育データにおける x の最小値に基づいて決定した値である。また、bは気温と発育の非線形な関係性を表すためのべき指数、cは日射量が発育に与える影響を表すための係数、dは発芽日のDOYと発育の関係性を表すためのべき指数である。全地点での全データに基づいて決定したパラメーターの値は T0 = 9.3、a = 696.5、b = 1.11、c = 0.16、d = 0.24であり、推定の二乗平均平方根誤差 (Root Mean Square Error: RMSE) は2.41日である。
- 各地点に対し、その地点以外の全地点でのデータに基づいてパラメーターの値を決定したモデルによる予測のRMSEは全国平均で 2.54日であり、本モデルは広域での予測において有用である。また、日平均気温と発育は線形な関係にあるとした既存の有効積算温度モデルと比較すると、本モデルは、より多くの予測結果について予測誤差が0日に近く尖度が高い(図2)。このとき既存モデルのRMSEは2.76日である。なお、既存モデルでは、発芽日から満開日までの有効積算温度は次式で表される;
EAT=ΣDi = 1(Ti - T0)
(ただし、Ti < T0のときTi - T0 = 0)。
成果の活用面・留意点
- 本モデルは、国内で利用可能な満開日予測モデルであり、ジベレリン処理や薬剤散布などの作業計画の作成や、新規にブドウ栽培を開始する際に役立てられる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2020~2021年度
- 研究担当者 : 岩﨑千沙、杉浦裕義、菊井玄一郎、小谷野仁
- 発表論文等 : Iwasaki C. et al. (2022) Hort. J. 91:195-208