要約
利用者が作物種・世代数などの情報を対話型入力することにより、品種・系統の系譜情報を中心とした育種関連情報をわかりやすく表示するウエブツールである。育種における両親の組合せ選定だけでなく、生産者や消費者が品種の特性を理解するツールとして系譜情報を利活用できる。
- キーワード : ウエブツール、系譜(家系)情報、オントロジー、育種、品種特性
- 担当 : 基盤技術研究本部・農業情報研究センター・AI研究推進室・多変量解析ユニット
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
全世界的な食糧需要量の増加、食料安全保障に対する意識の高まり及び激しさを増す気候変動等のニーズに即応する新品種育成の加速・効率化が求められている。そのためには、研究者や育種家の育種母本の選定等に必要な育種関連情報を整備し、複雑な系譜情報を簡便で網羅的に検索・閲覧できるようにする必要がある。しかし、系譜情報や品種特性を含む育種に必要な諸情報は研究機関や作物ごとに散在しているだけでなく、それらの情報のデータ様式が統一されていないという問題がある。そこで、作物の系譜情報の活用を容易にするデータベースが求められている。
本研究では、複数の作物種において同じ方法で利用するための汎用的なデータ形式を整備する。また、最新の系譜情報や形質情報、遺伝子情報等へのアクセスと共有が容易にできるように、育種情報をウエブ上で一元管理し、系譜情報と品種・系統(以下、品種等とする)の特性を視覚的に一覧性のあるデータベースを開発する。本データベースは、近縁関係を考慮した交配親の選定といった育種現場での利用だけでなく、親から子に受け継がれる「遺伝的因子」を解明する分子育種学的な研究利用、病害抵抗性などの品種特性を考慮した生産現場における品種選択での利用など、幅広い利用を目指す。
成果の内容・特徴
- 本システムは、品種等の名称を入力後、作物を選択することで、誰もが作物の系譜情報を簡単に活用することができるデータベースである(図1)。ユーザー登録をしなくても、表1の系統数は、利用可能である。
- 育種関連情報をコンピュータで理解可能な形式で記述するためのオントロジー「Pedigree Finder Ontology (PFO)」を構築し、系譜情報を標準フォーマットで整備することにより、様々な作物の育種関連情報を作物横断的に同じ形式で表示できるだけでなく、系譜情報をデータ解析に利用できる。
- 祖先方向にさかのぼって、あるいは子孫方向に下って表示したい世代数を指定して系譜図を視覚的に理解しやすいレイアウトで自動作成でき、既存のツールではデータの取得が難しい子孫の情報を調査できる(図1)。線の交差を最小限にするように系統を配置し、戻し交配は回数を数字で表記することで系譜図を簡潔に表現している。これにより、交配に使われた回数が多い系統や子孫の数が多い系統の調査など、様々な角度から品種等の重要度を検討し、品種等の起源や近縁関係を考慮して育種素材を有効に選ぶことが可能となる。
- 系譜図を形質・遺伝子型情報によって異なる色で塗り分けることにより、品種等の特性の関連性及び遺伝様式についての手がかりを視覚的にとらえることに役立つ(図2)。
成果の活用面・留意点
- 本研究で開発した「Pedigree Finder」は、作物横断的に公設試、企業、大学等が保有する品種等のデータを登録・共有するための基盤として活用できる。
- 系譜情報を核として、系譜情報に形質データやゲノム情報など様々なデータを関連付けたデータ連携利用が期待される。
- データの公開・非公開については、データ提供機関の意見を踏まえて設定している。非公開データに関しては、データ提供機関の指示に基づいてアクセス権の制御を行い、特定のユーザーのみ、データの利用が可能である。このため、データを利用する際には、データの利用を許可されたユーザー以外の者へのデータの提供を含む一切の情報の共有が禁止されていることについて、留意する必要がある。
具体的データ
その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(民間事業者等の種苗開発を支える「スマート育種システム」の開発)、文部科学省(ROIS-DS-JOINT)、農林水産省(SIP、データ駆動型育種)
- 研究期間 : 2019~2022年度
- 研究担当者 : 鐘ケ江弘美、松下景、林武司、川島秀一(DBCLS)、後藤明俊、竹﨑あかね、矢野昌裕、菊井玄一郎、米丸淳一
- 発表論文等 :