要約
農協の支部単位・園地単位でのウンシュウミカン糖度を予測したい場所の過去の糖度と気象データを用いて出荷の6か月前から糖度を予測することを可能とする。梅雨明けから糖度予測値が得られる予測システムは、気象変動に対応した栽培管理や販売計画への活用により生産者支援に役立つ。
- キーワード : AI、カンキツ、糖度予測、栽培管理、販売戦略
- 担当 : 基盤技術研究本部・農業情報研究センター・AI研究推進室・多変量解析ユニット
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
多くのウンシュウミカン産地では、生産者人口の減少および高齢化が進んでおり、現在までに実施されている熟練者の園地周回による品質傾向予測を、今後も人が行っていくのは難しいという問題に直面している。そこで本研究では産地に蓄積した過去の糖度データと気象データを活用し、出荷の6か月前から高精度に出荷時糖度を予測するシステムを開発した。生育段階で出荷時糖度の傾向を把握することは栽培管理・販売計画において重要であり、当システムが提供する糖度予測値は栽培指導や販売計画策定のための基礎データの1つとして生産現場を支援する。
成果の内容・特徴
- 本システムは、予測対象地の過去の糖度データおよびそれに対応する過去の気象データ(降水量・日最高/最低/平均気温・日照時間)を必須とし、それらをもとに、糖度予測モデルを構築し、予測対象年の気象データを構築した予測モデルに適用することで糖度予測値を算出する。糖度予測モデル構築の際は、前年糖度から経年変化を元に算出した当年の糖度予測値と、気象値の積算期間を探索して得られた当年の糖度予測値について、交差検定を行いモデル全体の最適化の中で重みを決定し、モデルを決定する(図1)。構築される予測モデルは汎用的なものではなく、予測モデルの構築に使用した過去データと同じ条件、例えば施肥・灌水方法・栽培方法(マルチまたは露地)、同じ土壌条件である場合に適用可能なもので、異なる条件の場合は、別途予測モデルを構築する必要がある。
- 糖度予測システムはGUI付アプリケーションとしてリリースしており、出荷時糖度以外も予測対象とすることが可能である。糖度または酸度、生育途中の指定した日付または出荷(選果)日、複数果実の糖度平均算出法、複数の園地をまとめた支部、または園地単位で予測するか、4つの熟期(早熟早生、早生、中生、晩生)のどの系統かを選んで、条件を絞ったモデルを構築する(図2)。
- 生育途中の指定した日付や出荷時の糖度予測値は、例年の同時期の糖度と比較することで、糖度を上げるための栽培管理の必要性の検討や販売計画における産地ブランドの出荷見込み作成の際に役立てることができる。
- 図3の長崎県JAながさき西海の選果時糖度予測例では、農研機構のメッシュ農業気象データを用いており、予測実施日までは気象観測データ、予測実施日以降は気象予報データもしくは平年値データとなる。予測に用いる気象値において、早期に予測するときほど気象予報値および気象平年値を適用する期間が長くなるため、気象実況値(実際の観測値)との乖離が大きくなる可能性が高い。そのため、予測実施日が予測対象日に近づくほど予測値の誤差は平均的に小さくなっていく。7月20日時点で出荷時糖度を予測したときの二乗平均平方根誤差は0.61(Brix値)であったが、気象実況値使用時(出荷時に出荷時糖度を予測した状況と同じ)では0.47(Brix値)であった(図3)。気象予報値の他に、各気象要素の値を変えた気象値セットを適用することで、収穫までの気象変動によって増減する出荷時糖度のシミュレーションに活用できる。
成果の活用面・留意点
- 活用現場 : ウンシュウミカン生産者団体、糖度センサー販売に関わる団体、行政機関、民間事業者および研究者
- 活用予定面積等 : 全国のウンシュウミカン生産者団体および公設試
- その他 :
- 本システムは、予測対象とする場所・品種について、異なる気象と糖度のセットが、年数を問わず7セット以上あるときに適用が可能となる。
- 糖度予測の実施可能時期は、前年度の収穫以降、予測対象年月日以前となる。
- 本予測システムは予測モデル構築と予測計算の両方を含み、地域や品種を問わず汎用的に使用できる。
- 詳細な活用手順や産地データを用いた実証結果を示したSOP(標準作業手順書)を作成し、普及を進める。
- 本システムは、農研機構のホームページより申請することで使用可能となる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(スマート農業技術の開発・実証プロジェクト)、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2019~2023年度
- 研究担当者 : 森岡涼子
- 発表論文等 :
- 森岡「農作物の生産成績を予測する予測方法、予測装置、及び予測プログラム」特開2022-136056(2022年3月4日)
- 森岡「農作物の生産成績を予測する予測モデルの生成方法、生成装置、及び生成プログラム」特開2022-136057(2022年3月4日)
- 森岡「農作物の生産成績を予測する予測モデルの生成方法、生成装置、及び生成プログラム」特開2022-136058(2022年3月4日)
- 森岡(2022)職務作成プログラム「ウンシュウミカン品質予測プログラム」、機構-ZC4