画像による乳牛の骨格特徴点の抽出

要約

関節位置推定モデル(CPM)のディープラーニングアルゴリズムを応用し、乳牛の画像から分娩困難度に関わる下肢と骨盤の骨格特徴点の位置を推定する技術である。本技術を組み込むことで、画像から乳牛の分娩困難度を予測するシステムが開発可能となる。

  • キーワード : ホルスタイン種牛、画像、分娩難易度、機械学習
  • 担当 : 基盤技術研究本部・農業情報研究センター・AI研究推進室・画像認識ユニット
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

乳牛の難産は経済的損失をもたらす。牛の分娩難易度を予測し、適切な介助が可能となれば、このような損失を防ぎ、生まれたばかりの子牛の生存を確保することができる。分娩困難牛の予測には骨盤腔測定が一般的に用いられているが、測定にはかなりの時間と労力を要するため、生産現場での実施は困難である。そのため、骨盤腔測定に代わる、より簡便で実用的な方法を開発する必要がある。そこで、本研究では、非侵襲的で労力がかからない分娩難易度予測法の構築を目指し、画像から下肢と骨盤の特徴点の機械的な推定を行う。

成果の内容・特徴

  • 牛の骨盤の形に関する23の特徴点を図1に示す。
  • 本技術は、推定モデル作成のために牛の画像データを収集し、画像の前処理と骨格特徴点(図1)のアノテーションをした上で学習データ、検証データ、テストデータに分割。これらの画像データによるモデルの学習を特徴点推定のディープラーニングアルゴリズムとしてconvolutional pose machine(CPM)を用いることで、画像から牛の骨格特徴点の推定を行う。
  • 前処理として、画像データは牛の部分を矩形に切り出し、512×512ピクセルに収まるように拡大する。切り出した部分は512×512ピクセルの中心に配置し、画像データのない部分は黒く塗りつぶす(図2)。
  • 全画像データは、3,099枚(牛292頭分)で、このうち横向き画像は2,220枚、後ろ向き画像は879枚である。牛の向きを問わず一つのモデルで特徴点を推定するため、横向き・後ろ向きを合わせて学習を行う。この画像を訓練データ2,070枚、検証データ729枚、テストデータ300枚に分ける。ただし、テストデータに写る個体は、訓練・検証データの個体とは別のものである。
  • 画像に基づいて人間の姿勢を推定するためのアルゴリズムCPMを適用して、特徴点を推定する。特徴点の座標が正しく推定された割合である正解率(PCK:percentage of correct key points)を用いて評価したところ、骨格特徴点の推定精度は0.89である。骨格特徴点の正解例を図3に示す。

成果の活用面・留意点

  • 本研究の画像は、独)家畜改良センター岩手牧場、茨城県畜産センター、北海道農業研究センターで飼養されているホルスタイン種牛を撮影し、分娩前約1か月以内・分娩後約半年以内の未経産牛および初産牛の画像を使用している。
  • 撮影は一般的なデジタルカメラで、立位の牛の側面から(横向き画像)、あるいは真後ろから(後ろ向き画像)、できるだけ牛が斜めにならないように撮影する。牛が静止していれば保定の必要はない。
  • 特徴点は、光線の向き等の撮影環境や、牛の姿勢、他の牛との重なりによって、推定できないことがある。
  • この骨格特徴点を用いた分娩難易度判定方法を現在開発中である。

具体的データ

図1 骨格特徴点,図2 画像の前処理,図3 牛の横向き画像(A)と後向き画像(B)を使った骨格特徴点推定の成功例

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2018~2023年度
  • 研究担当者 : 青木真理、杉浦綾
  • 発表論文等 :
    • Aoki M. and Sugiura R.(2024)農業情報研究、33:59-64
    • 青木ら「ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体」特許第7431420号(2021年8月12日)