要約
日本の緑茶品種の中でも品質や形質に優れる「せいめい」の参照ゲノム配列を構築し、国内外の茶品種や系統23種のゲノム解析により品種間の違いを把握し、日本の緑茶品種に特徴的な遺伝子配列を明らかにする。
- キーワード : 緑茶、ゲノム解析、ゲノム育種
- 担当 : 基盤技術研究本部・高度分析研究センター・ゲノム情報大規模解析ユニット
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
日本の「緑茶」は、世界的にも独自の品質と風味で高く評価され、私たちの生活に欠かせない文化的・経済的価値を持っている。しかし、気候変動や病害虫の影響、労働力不足などによる茶産業の課題が増えており、高品質で収量性に優れた新たな品種の開発が急務となっている。従来の品種改良は長い年月と手間を要するものだったが、近年ではゲノム情報を活用した「ゲノム育種」が注目されている。これは、遺伝子レベルで作物の特性を理解し、効率的に品種改良を進める技術である。しかし、日本の緑茶品種に特化したゲノム情報が不足していたため、十分に実用化されていないのが現状である。そこで、日本の緑茶品種「せいめい」の全ゲノム配列を解読し、その情報を基盤として新たな品種改良を推進する取り組みを進めている。
成果の内容・特徴
- 次世代シーケンサーによる「せいめい」ゲノムDNAの解析を行い、染色体レベルにまで繋がった参照ゲノム配列を構築したものである。得られたゲノム配列は全長で約31億塩基となり、推定される茶のゲノムサイズ32億塩基のほぼ全体をカバーする。また、決定したゲノム配列から見いだされた遺伝子は合計55,235個である。本成果は、世界で初めて得られた日本の緑茶用品種の全ゲノム配列や遺伝子情報となる。
- 茶の品種改良や農業形質に関する遺伝解析を進めるにあたり、国内で最も栽培面積が大きい「やぶきた」を含め国内外の茶品種や遺伝資源から選ばれた23品種・系統について、次世代シーケンサーを用いてゲノム配列情報を取得し、「せいめい」の参照ゲノム配列と比較することで各品種間の多型情報を整備してゲノムブラウザTASUKE+に載せて公開する(図1)。
- 「せいめい」とその他の23系統・品種のゲノム配列情報を用いた集団遺伝学的な解析の結果、全55,235個の遺伝子のうち約1割に相当する5,003個の遺伝子が、日本の緑茶品種に特徴的な配列をもつことが明らかになり、その中には、カテキンなどのポリフェノールを酸化する機能をもつとされるポリフェノール酸化酵素遺伝子や、カフェイン合成酵素遺伝子などが含まれる(図2)。これらの遺伝子が日本茶の歴史や育種の過程で人為的な選抜を受けてきた可能性を示唆している。
成果の活用面・留意点
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本成果におけるゲノム多様性解析に用いた23系統・品種には、緑茶や紅茶用など幅広く含まれているが、チャゲノムの多様性を網羅するには至っていない。現在、より多くのチャ品種や交配に用いられる育種素材を含む、200系統以上のゲノム多型情報を整備し、利用を始めている。今後は多型情報に加えて、様々な農業形質についての表現型情報を利用したゲノムワイド関連解析による有用遺伝子の同定やマーカー開発を進めるなど、本情報基盤を活用したチャのゲノム育種を推進する。
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23品種・系統の全ゲノム多型情報を搭載したTASUKE+ブラウザは専用のウェブページ(https://agrigenome.dna.affrc.go.jp/tasuke/Tea_Seimei/)から公開しており、誰でも利用可能である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究の推進:みどりの品種開発加速化プロジェクト)、SIP
- 研究期間 : 2019~2024年度
- 研究担当者 : 川原善浩、谷口郁也、田中淳一、髙山和大、若生俊行、荻野暁子、山下修矢
- 発表論文等 : Kawahara Y. et al. (2024) Plant Cell Physiol. 65:1271-1284