要約
積雪地域の北海道冬小麦の生育ステージを予測する技術である。主に気温から生育ステージのday of the year(DOY)を重回帰式により段階的に予測するが、融雪期や積雪下の小麦生長点の近傍温度を組み込み、積雪期間中の生育を加味することで、従来技術よりも高精度に予測が可能である。
- キーワード : 冬小麦、生育ステージ予測、積雪
- 担当 : 基盤技術研究本部・農業情報研究センター・AI研究推進室・画像認識ユニット
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
北海道は全国の小麦の約7割を生産する。北海道で多く生産される冬小麦は、生育期間中の数か月間、雪に覆われる。雪には断熱効果があるため、小麦が積雪下にあるときと外気に晒されているときとで気温の小麦への影響が異なる。そのため積雪がある場合、別途、積雪下での生育を考慮する必要がある。しかし、小麦の生育ステージ予測のための従来技術に積雪地域を対象としたものはなく、積雪は考慮されていない。そこで本技術では、予測式に融雪期や、積雪下の小麦生長点の近傍温度を計算して組み込むことで積雪を考慮し、北海道冬小麦の生育ステージを予測する。
成果の内容・特徴
- 本技術により幼穂形成期、出穂期、開花期、成熟期を予測する流れと重回帰式を図1に示す。また、重回帰式の説明変数と目的変数を表1、パラメータの値を表2に示す。本技術では、まず幼穂形成期を予測した後、その予測値を出穂期予測に用いる。また幼穂形成期と出穂期の予測値を、開花期・成熟期予測に用いる。この手順により生育ステージを段階的に予測する。また、説明変数は主に生育ステージのDOYと気温であるが、積雪がある場合、融雪期のDOYと、積雪下の小麦生長点の近傍温度の計算値を用いる。
- 重回帰式は、北海道の複数地域・地点(図2)での2002-2022年度産の冬小麦「きたほなみ」の播種期、融雪期、幼穂形成期、出穂期、開花期、成熟期のデータ、および農研機構メッシュ農業気象データの気温と積雪深のデータから求める。播種期、幼穂形成期、出穂期、開花期、成熟期のデータ数はそれぞれ103、95、103、25、76である。一方、融雪期についてはデータ数が限られるため、項目3に示す方法で融雪期を決定する。
- 圃場面積の半分以上で積雪がなくなった日を融雪期とする。北海道での冬小麦栽培において、気温が上昇し積雪深がある程度浅くなると、小麦の生育再開を早めるために融雪剤を散布することがある。そこで、気温上昇による自然な融雪期と、融雪剤散布の影響を受けた人為的な融雪期の両方を考慮する。ただし融雪期の実測数が少ないため、実測データがない場合は次の方法で融雪期を決める:農研機構メッシュ農業気象データの積雪深が0cmとなる日をxとする。xが4月1日以前であればxを融雪期(自然な融雪期)とする。また生産者は4月の作業(生育)再開を早めるため計画的に融雪剤を散布することが一般的なことから、xが4月1日より後であれば、4月1日を融雪期(人為的な融雪期)とする。
- 本技術と、既存技術のKawakita et al.(2022)のDVRモデルにより、生育ステージ予測する。DVRモデルでは、幼穂形成期、出穂期、開花期、成熟期の予測値のroot mean square error(RMSE)はそれぞれ3.6、1.9、2.5、3.1日である。一方本技術では、それぞれ2.8、1.9、1.9、2.6日とDVRモデルよりも小さな値であり改良されている。よって本技術により、既存技術よりも高精度で北海道冬小麦の生育ステージ予測が可能となる。
成果の活用面・留意点
- 小麦栽培管理において、施肥や病虫害予防のための薬剤散布は生育ステージごとに行われるため、本技術での生育ステージ予測結果は小麦の適切な栽培管理を実施することに繋がる。
- 本技術は主に十勝、上川、空知地方のデータを利用して学習した予測モデルであり、これら地域での生育ステージ予測に有用である。一方、その他地域での精度は未確認である。
- 本研究では、融雪期の実測データ数が限られたため積雪深から融雪期を推定したが、実測データが取得可能な場合は実測日を利用するのが望ましい。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2022~2024年度
- 研究担当者 : 岩﨑千沙、下田星児、杉浦綾、菊井玄一郎(JST)、杉川陽一(道総研)
- 発表論文等 :
- Iwasaki C. et al. (2025) J. Agric. Meteorol. 81:44-55
- 岩﨑ら「発育ステージの予測方法及び発育ステージの予測プログラム」特開2024-11156(2024年1月25日)