要約
テンサイの収穫の約2ヶ月前に収量を予測するアプリを開発した。このアプリは製糖会社が保有する生育データと農研機構1kmメッシュ農業気象データを利用し、収量を予測することができるほか、収量に影響した気象などが示される。
- キーワード : テンサイ、収量予測、1kmメッシュ農業気象データ、生育データ、工場別
- 担当 : 基盤技術研究本部・農業情報研究センター・AI研究推進室・確率モデルユニット
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
砂糖の原料作物であるテンサイは、そのほぼ全量が圃場から製糖工場へトラックで輸送され、原料糖に加工される。製糖会社ではこの輸送計画や工場の操業計画を立てる上でテンサイの収量をできるだけ正確に予測する必要がある。当年の生育状況から長年の経験知をもとにした熟練職員による予測は非常に正確であるが、若手職員が同等の精度で予測するためには、経験知を客観化することが重要である。また、現在の予測方法は調査データの集約や気象データの収集が煩雑であるため、簡便かつ高精度に予測する手法の開発が求められている。そこで、本研究では製糖会社が保有する栽培・生育データと農研機構1kmメッシュ農業気象データを学習データとし、各製糖会社に対応した予測モデルを作成する機械学習アルゴリズムを開発することで、簡便にテンサイの収量予測を行うことができるアプリケーションを開発することを目的とする。
成果の内容・特徴
- テンサイは品種構成割合の変化が早い(図1a)。A工場の2017年から2022年の各年を検証データとし、学習データを各予測対象年の前年から過去5年分~8年分の期間で変化させた結果、予測誤差パーセントは過去5年に絞った場合が最も小さい(図1b)。古いデータには既に栽培されていない品種のデータが含まれており、このことが予測精度に影響すると考えられることから、本研究では学習データの期間を予測対象年の前年から過去5年分とする。
- このアプリケーションはオープンソースのPythonフレームワークであるGradioを使用し、収量予測プログラムをWebアプリ化している。アプリの使用者はExcelファイル形式で作成した学習データを準備する。学習データとして用いるのは、地点情報(住所あるいは緯度・経度)とそれに対応する収量や生育データ(移植日、移植・直播の別、掘り取り調査等)で、予測対象年の前年から過去5年分、最低30地点以上のものである。このとき、データは工場別に用意する。
- アプリの画面を図2に示す。使用者はExcelファイル形式で作成した学習データのファイル名を欄①に、予測を実行する日の日付を欄②に入力後、プルダウンから年次を選択しアプリを実行することで、地点と年月日に応じたメッシュ農業気象データがダウンロードされ、欄③に予測結果が出力される。1kmメッシュ農業気象データは気象の予報値をシームレスに得られるため、予測の実行日以降の気象値には予報値と平年値が適用される。欄④にはアルゴリズムで選択されたモデルの説明変数が出力され、収量と相関が高かった気象要素や生育データが示される。
- テンサイの収量は工場別に予測される。テンサイの収穫は10月中下旬が最盛期であることから、2ヶ月前にあたる8月20日に予測を行うと仮定し、検証データとして2017~2022年の工場別収量を予測したとき、予測誤差パーセントは十勝地域が6.86%、RMSEは5.37(t/ha)、オホーツク地方が8.19%、RMSEは5.83(t/ha)である(図3)。このとき、検証データに含まれるのは8月20日までに収集されたデータであり、8月21日以降の気象値は予報値および平年値である。
- 欄④で示されるのは収量と相関が高い要素であり、これは若手職員に対して客観化された経験知として提供される。たとえば、テンサイの病害は夏季の降水量から影響を受けるが、病害の発生率がオホーツク地方より高い十勝地方では、夏季の降水量の提示頻度が高い。
成果の活用面・留意点
- 本モデルの学習データとして単一品種のデータを用いる場合には、過去5年より古いデータを用いても予測精度が低下しにくい。
- このモデルは説明変数がアルゴリズムによって自動的に選択されるが、選択頻度の高い要素(春季の気温、夏季の降水量など)は先行研究と概ね一致していることを確認している。
- 本アプリは農研機構の職務作成プログラムとして登録されており、利用のためには農研機構との契約が必要である。
- 本アプリによって提示される情報はテンサイの輸送計画や工場の操業計画、若手職員への指導に活用することができる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 文部科学省(科研費)、民間資金等(資金提供型共同研究)
- 研究期間 : 2021~2024年度
- 研究担当者 : 金谷真希、森岡涼子、石郷岡康史、辻博之
- 発表論文等 :
- 金谷ら(2025)てん菜研究会会報、65:1-7
- 金谷ら(2024)職務作成プログラム「テンサイ収量予測プログラム」、機構-ZC27