インタクトNMRによる農産物・食品中成分の非破壊分析法

要約

新たに開発したインタクトNMR計測用のパルスプログラムを一般的な溶液NMR装置に実装することで、農産物や食品中成分を抽出することなく特定可能な高分解能NMRスペクトルの取得ができる。

  • キーワード : インタクト、NMR、微生物、発酵、代謝物
  • 担当 : 基盤技術研究本部・農業情報研究センター・データ研究推進室
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

農産物や食品中の成分は、核磁気共鳴法(NMR)や質量分析法により評価することができる。しかし、これらの成分分析では、農産物や食品から成分を抽出する必要があるため、包括的かつ非破壊的に成分を検出することは困難である。また、検出される成分は抽出溶媒の極性や抽出工程に依存するなどの欠点もある。NMRでは原理上、成分抽出を行わずに農産物や食品をそのままの状態でも分析することは可能であるが、細胞や組織などの空間的な不均一性などが原因となり、各成分に由来するNMR信号ピーク幅がスペクトル全体にわたって幅広化し、得られるNMRスペクトルから成分を特定することが困難となる。この問題を解消する方法として高分解能マジックアングルスピニング(HR-MAS)を併用する分析法が知られているが、NMR計測中に試料管を高速回転させる必要があるため、農産物や食品によっては細胞組織や構造の損傷リスクがある。
近年、HR-MASを使用しなくても、試料に照射するラジオ波パルスの種類やタイミング等を調整し、この問題を低減させて高分解NMRスペクトルを取得できる分子間単一量子コヒーレンス法(iSQC)が発見された。そこで本研究では、iSQC計測が可能なNMRパルスプログラムを開発し、本手法が実装された一般的な溶液NMR装置にて農産物・食品中成分を非破壊的に特定することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 溶液NMR計測の様な計測対象サンプルの成分抽出等の調製が必要無く、計測対象サンプルをNMR計測用試料管にそのまま挿入してNMR計測に供試することが可能である(図1)。
  • 本計測法で得られるNMRスペクトルは、試料にラジオ波を1回だけ照射してNMR信号を取得する従来法や水分子由来のNMR信号を抑制するラジオ波の系列を含めた従来法では困難であったインタクトなサンプル中の成分の特定が可能である(図2)。
  • 日本の伝統的な発酵食品である「ぬか漬け」では、本計測法で得られたNMRスペクトルにおいて、ニンジン中およびキュウリ中の成分由来のNMR信号強度の変化から、米ぬか中の微生物による発酵等のプロセスの定性的な評価が可能である(表1、表2)。
  • 本計測法では、ありのままの状態のサンプル中の成分由来のNMR信号を検出しているため、従来の溶液NMR計測で扱う抽出試料より実態に近い評価が可能である。

成果の活用面・留意点

  • 本計測法を適用する試料では、農産物や食品といった水分を多く含むサンプルについて特に計測効果が高い。
  • 本計測法は、HR-MASのように併用するための特殊な装置を別途用意する必要がなく、一般的な溶液NMR装置にパルスプログラムを導入するのみで分析が可能である。
  • 本計測法の応用例として、農産物においては品種や栽培環境の違いによる栄養成分変化、加工食品においては加工工程における成分変化、環境資源においては環境要因がもたらす影響等が評価可能である。
  • 本計測法の効果はサンプルの性状や物性の影響を受けるため、サンプルに応じてパラメータを最適化する必要がある。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2023~2024年度
  • 研究担当者 : 伊藤研悟、山本琉晴、関山恭代
  • 発表論文等 : Ito K. et al. (2024) Metabolites 14:391