要約
遺伝子が欠失するようなゲノム構造変異が解析可能な新規の情報解析パイプラインにより、国産大豆ゲノムの特徴が明らかになり、データベース「Daizu-net」の利用によりゲノムデータを基礎研究から育種まで幅広く役立てることが可能となる。
- キーワード : 全ゲノム解読、ゲノム構造変異解析、pangenome解析、Asm2svパイプライン、ゲノムデータベース
- 担当 : 基盤技術研究本部・高度分析研究センター・ゲノム情報大規模解析ユニット
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
豆腐、納豆、味噌、醤油、枝豆に代表されるように、大豆は古くから我が国の食文化と密接に関連する作物である。日本品種が持つ外観や食品加工適性を維持しつつ、世界の品種が持つ高収量性や頑健性を育種で導入するためには、日本品種の特徴をゲノムレベルで理解する必要がある。そのためには、1~数塩基のゲノム配列の違いを網羅的に解析する従来ゲノム解析に加えて、遺伝子が丸ごと欠失するようなゲノム構造変異解析を実施する必要がある。そこで本研究では、新規に高精度リファレンスゲノムを複数品種で解読するとともに、新規情報解析パイプライン「Asm2sv」を開発することで、品種間で生じるゲノム構造変異を詳細に解析する。また、解析したゲノムデータを幅広く役立てるためのデータベースとして「Daizu-net(https://daizu-net.dna.naro.go.jp/)」を開発して公表データを閲覧できるようにする。
成果の内容・特徴
- 「エンレイ」「フクユタカ」など日本産標準品種を含む11品種についてナノポアロングリードシークエンスを実施し、大豆の20染色体を隈なく解読(アセンブル)したリファレンスゲノム(基準ゲノムデータ)を構築している。同時に、個々のリファレンスゲノムに存在する遺伝子(それぞれ約6万遺伝子)を特定し情報化している。
- 染色体を丸ごと一度きり比較してゲノム構造変異を捉える従来法とは異なり、約6万ある大豆の遺伝子を1つずつ順番にゲノム構造変異を解析する新規パイプライン「Asm2sv」を開発して公開している(図1)。
- Asm2svを用いることにより、ゲノム間で生じる遺伝子の構造変異を正確に解析できる。Asm2svの一次出力データは、パンゲノムグラフと呼ばれる統合リファレンスゲノムにアップデートでき、これを用いることで安価に取得可能なショートリードデータを使用して大規模集団のゲノム構造変異解析が可能になる(図2)。
- 今回解読した11品種のリファレンスゲノムと462品種のDNA多型データ(ショートリードデータによる)をデータベース「Daizu-net」で公開している。Daizu-netでは大豆の約6万遺伝子それぞれの情報調査(配列検索、DNA変異検索、プライマーデザイン等)を行うことができる(図3)。
- 大豆は古倍数性ゲノムであり、ゲノム全体の約7割が重複しているという特別な事情を持つ。これはイネ等の単純ゲノムには無い性質であるが、そのような大豆特有の「同祖遺伝子」の関係性を視覚的に理解できるような工夫をアプリケーション機能に加えている。
成果の活用面・留意点
- これまでの大豆ゲノム・育種研究では米国品種「Williams 82」を基準リファレンスゲノムとして利用する他なかったが、今回の成果公表により、日本品種のゲノムを基準にして研究から品種育成までを進めることができる。
- Asm2svパイプラインを用いることにより、遺伝子単位のゲノム構造変異解析が可能になる他、それらを統合したパンゲノムグラフを作ることができる。Asm2svによるパンゲノムグラフは、従来法とは異なり遺伝子単位のゲノム構造変異を対象としているため、特に品種による遺伝子の有無(専門用語でpresence/absence variationという)を調べたい場合に適している。
- Daizu-netデータベースでは用途別に異なるウェブアプリケーションが用意されており、それぞれBLAST検索やプライマー作成支援、DNA多型検索(現状は一塩基多型や短い挿入欠損変異に限る)をインタラクティブに行うことができる。「エンレイ」のリファレンスゲノムを基準にしており、約6万ある遺伝子それぞれの機能情報や遺伝子発現マップ(アトラス)も閲覧することができる。ただし、非登録ユーザーの検索利用は1日あたり回数制限を設けている。
- 今回の解析ゲノムデータのうちDaizu-netから公開されている情報は、後述する論文を引用することで使うことができる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(ムーンショット型農林水産研究開発事業、民間事業者等の種苗開発を支える「スマート育種システム」の開発)、文部科学省(戦略的創造研究推進事業)、経済産業省(ムーンショット型研究開発事業)、SIP
- 研究期間 : 2021~2025年度
- 研究担当者 : 矢野亮一、李鋒、平賀勧、竹島亮馬、小林光智衣、戸田恭子、梅原洋佐、鐘ヶ江弘美、加賀秋人、石本政男、岩田洋佳(東大)
- 発表論文等 :