湿害や病害に抵抗性を有する日本オオムギ品種「早木曽2号」のゲノム解読

要約

環境や様々な生物から受けるストレスの抵抗性は作物栽培における収量や品質の安定化に重要である。湿害やオオムギ縞萎縮病の抵抗性を有し、オオムギの育種素材として有望な、日本オオムギ品種「早木曽2号」のゲノム解読と遺伝子セットの解明は、育種選抜の効率化に有効である。

  • キーワード : ゲノム解読、オオムギ、「早木曽2号」、湿害耐性、病害耐性
  • 担当 : 基盤技術研究本部・高度分析研究センター・ゲノム情報大規模解析ユニット
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

作物栽培における様々な環境や生物から受けるストレスは、著しい収量低下や品質低下をもたらすため、ストレス抵抗性は育種において重要な農業形質の一つとされる。オオムギは一般的に湿害に弱く栽培期間全体を通して被害の恐れがあるほか、様々な病害も報告されており、これらのストレスに対する抵抗性を有するオオムギ品種の開発は育種に於いて喫緊の課題となっている。日本オオムギ品種「早木曽2号」は早生性やオオムギ縞萎縮病抵抗性(図1)、湿害抵抗性などの様々な重要農業形質を有しており、育種素材として有望な遺伝資源の一つである。
そこで本研究では、ゲノム配列解読によって「早木曽2号」の全遺伝子セットを明らかにし、重要農業形質に関する要因の解明と育種選抜効率の加速化に資する遺伝情報基盤の構築を目指す。

成果の内容・特徴

  • 長鎖型、短鎖型次世代シーケンス情報とオオムギ品種「Morex」の参照ゲノム情報を用いて構築した、43億塩基対の「早木曽2号」ゲノム配列には、55,477遺伝子が予測された(表1)。
  • 55,477遺伝子のうち、公開中のイネゲノムとコムギのA、B、Dゲノムから予測された遺伝子群との間で1対1の関係がある同祖遺伝子が14,106個存在する。
  • 「早木曽2号」の遺伝子のうち、2,494遺伝子は「Morex」や日本オオムギ品種「はるな二条」には存在しない。
  • 6,708遺伝子について、オオムギ76品種との比較によって、「早木曽2号」が日本オオムギ品種グループに属すことが明らかになる(図2)。これらの遺伝子配列比較によって、既報の早生関連遺伝子の変異を含む多くの「早木曽2号」特異的変異が見つかった。

成果の活用面・留意点

  • ゲノム配列情報が活用することで、「早木曽2号」を用いた育種選抜において、高密度な遺伝マーカーの開発や、農業形質関連変異の迅速な同定が可能になる。
  • ゲノム配列比較から検出された多くの同祖遺伝子情報と変異情報を活用することで、イネやコムギで先行している農業形質関連遺伝子情報をオオムギ育種に展開することができる。
  • 「早木曽2号」のゲノム配列の構築には、「Morex」参照ゲノムを用いていることから、ゲノム構造変異の同定に利用することはできない。
  • 「早木曽2号」のゲノム配列情報及び遺伝子情報は、PlantGARDEN(https://plantgarden.jp/en/list/t4513/genome/t4513.G006)より取得が可能である。
  • ゲノム配列情報や遺伝子情報は、新たな情報の追加によって更新されていく可能性がある。
  • 本研究に用いた「早木曽2号」の種子はナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)オオムギより供与を受けている。

具体的データ

図1 オオムギ縞萎縮病抵抗性試験結果,表1 「早木曽2号」ゲノムの統計情報,図2 ゲノム情報に基づく国内外のオオムギ品種の系統樹

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2018~2025年度
  • 研究担当者 : 田中剛、原口雄飛(福岡県農林試)、轟貴智(福岡県農林試)、最相大輔(岡山大)、安彦友美(九州大)、甲斐浩臣(福岡県農林試)
  • 発表論文等 : Tanaka T. et al. (2025) DNA Res. 32:dsaf016