ニホンナシ品種に出現するミルキーな風味の正体はγ-デカラクトンの香りである

要約

ミルキーな甘い風味を特徴に持つニホンナシ品種・系統が存在する。網羅的香気成分分析と分析型官能評価から、その最も重要な成分はγ-デカラクトンであることを突き止めた。将来的に特徴ある風味を持つニホンナシ品種の育種への応用が可能となる。

  • キーワード : ニホンナシ、ミルキー、γ-デカラクトン、官能評価、GC-におい嗅ぎ、香気成分
  • 担当 : 基盤技術研究本部・高度分析研究センター・環境化学物質分析ユニット
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

ニホンナシではこれまで香りに着目した育種の試みは少なかったが、近年、ほのかなミルキーな甘い風味を特徴に持つニホンナシ品種・系統の存在に着目が集まり、育種素材としての利用が期待されている。香りに特徴のある果実形質を利用して風味の優れた品種を育成するためには、嗅覚による判定だけでなく、その特徴に寄与する香気成分群の特定を特定し、その分析データを活用することが必要である。そこで、香気成分の網羅的分析と官能評価を合わせて解析し、ニホンナシに出現するミルキーな香りの成分の特定を行う。

成果の内容・特徴

  • 代表的なニホンナシ10品種を用いて、果汁中の香気成分の網羅的解析と、訓練されたパネルを用いた分析型官能評価を同一果実について行うと、"ミルキー感"と最も相関が高い香気成分はγ-デカラクトンである(図1)。
  • ミルキー感のある品種「はつまる」「蒼月」「なつしずく」を混合した香気濃縮物を作成し、段階的に希釈しながらその中に含まれる個々の成分のにおいの特徴と、検出できる限界の希釈倍率を求めると、γ-デカラクトンは全成分の中でミルキー感と関連するにおいを最後まで感じられる成分である(図2)。また、パネルのうち育種担当者は、γ-デカラクトンをミルキーな風味の既存品種「秋麗」の香りとして検知する(図2)。
  • 上記からニホンナシ品種に出現するミルキーな風味をもたらす香りの正体はγ-デカラクトンと特定する。γ-デカラクトンは牛乳や加糖れん乳に含まれる甘い香りの成分である。また、果物ではモモや一部のイチゴ品種に多く含まれる「桃らしい香り」の成分として知られる。ニホンナシでは、モモの数パーセントのγ-デカラクトン含有量の品種であっても、柔らかい甘い風味がミルキー感として感じられる(図3)。
  • γ-デカラクトンを生成しミルキーな香りを持つ品種の多くは「筑水」を親に持つ(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 2025年3月登録の新品種「蒼月」はγ-デカラクトンをミルキーな風味の元として持つ代表的品種である。
  • γ-デカラクトンを生成するミルキーな風味を新品種に取り入れることは個性豊かな新品種開発につながることが期待される。そのため、今後、γ-デカラクトンを生成する祖先品種の解明や生成に関連する遺伝子の特定が必要である。
  • 香気濃縮物中に含まれる成分の香りの特徴と強さの評価は、におい嗅ぎガスクロマトグラフィ(GC-O)により実施する。

具体的データ

図1 品種のミルキー感とγ-デカラクトン濃度の関係,図2 GC-Oによるミルキーな成分の特定,図3 果実の種類と品種ごとのγ-デカラクトン濃度の分布

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2022~2023年度
  • 研究担当者 : 田中福代、西尾聡悟、高田教臣、竹内由季恵、中嶋直子、早川文代、風見由香利
  • 発表論文等 :
    • 田中ら(2025)園学研、24:115-125
    • 田中ら(2025)園学研、24:135-143