農業生物資源ジーンバンク所蔵微生物株の完全長ゲノム解読とWeb公開による利用の加速

要約

農業生物資源ジーンバンクが保有する微生物遺伝資源のバーコード領域を解読し、ジーンバンクのWeb上に連携・公開を行っているが、遺伝資源の利用加速化のため、全ゲノム配列についても解読・報告している。本年度は、植物病原細菌6株について解読・報告、Web連携・公開している。

  • キーワード : 農業生物資源ジーンバンク、微生物、ゲノム配列、特性情報
  • 担当 : 基盤技術研究本部・遺伝資源研究センター・微生物資源ユニット
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

農業生物資源ジーンバンク事業(https://www.gene.affrc.go.jp/index_ja.php)では、食料・農業に関する糸状菌、細菌及びウイルス等、多様な微生物遺伝資源を保存し配布を行っている。遺伝資源の利用を促進するため、遺伝資源への多様な特性情報の付与に取り組んでおり、これまでは、主として微生物遺伝資源株への分類・同定に関わるバーコード領域の塩基配列情報の付与を行っているが、より多くの研究・開発に利用されるようにするため、完全長ゲノム配列を特性情報として付与することを開始している。完全長ゲノム配列を用いて、ゲノム全体の塩基配列情報の詳細比較を行うことで、異なる遺伝子を具体的に絞り込むことが可能となる。所蔵微生物株に関わる様々な研究(耐病性育種、薬剤耐性、感染機作の解明、代謝産物の解析 等)に利活用されることが期待され、微生物遺伝資源の利用が加速される。

成果の内容・特徴

  • Pseudomonas alliiは、野菜等に病害を引き起こす重要病原細菌である。このうち、タマネギに腐敗病を引き起こす基準株(MAFF 301514T)およびタマネギ以外の作物から分離された近縁な3菌株(MAFF 302050、730042および730146)の完全長ゲノム配列を解析している。これらのゲノム配列は、国際塩基配列データベース(International Nucleotide Sequence Database Collection : INSDC)に登録している(表1)。上記4菌株のaccession no.は、AP039447、AP039448、AP039449、およびAP039450である。これら4菌株は、近縁関係であることはわかっていたが、「同一種」であるのかについては不明であり、4菌株の完全長ゲノムを解読し(図1)、種の基準株(MAFF 301514T)と他の3菌株について、相同性の算出・比較により、これらはすべて同種のP. alliiであることが明らかとなっている。得られたゲノム情報は単一の植物病原細菌が異なる複数の作物に病原性を示す遺伝的要因の解明等に寄与する(図2)。
  • Acidovorax sacchariは、サトウキビの葉鞘や新芽に障害を引き起こす新種の病原細菌(サトウキビ赤すじ病菌)である。このうち、2菌株(MAFF 311311および311313)を解析し、ゲノム配列をINSDCに登録している(表1)。それぞれのaccession no.は、AP035783およびAP035784である。本種は、これまで日本でサトウキビ赤すじ病の原因菌と考えられてきた広宿主域のAcidovorax avenaeに近縁であるが、得られたゲノム情報より別種であると判断される。本研究ではゲノム解析により、宿主特異性に関わると考えられる本種独自のエフェクタータンパク質の予測も行い、これらのゲノム情報から得られた知見は、A. sacchariとA. avenaeの病原性・宿主特異性の差異の解明およびサトウキビ赤すじ病の原因菌の診断手法開発に寄与する。
  • 得られたゲノム配列はジーンバンクのWebと連携させ、公開を行っている(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 病原菌のゲノム情報を利用することにより、植物の病害抵抗性品種の選抜・育成の効率化・加速化や、病原性に関わる遺伝情報の解析・新たな防除方法の解明などの加速化に寄与できる。
  • 日本におけるサトウキビ赤すじ病の原因菌が、A. sacchariに限定されるのか、またはA. avenaeも関与しているのかについては現時点では不明であり、今後調査が必要である。
  • ジーンバンク事業として特性情報を広く公開することにより、配布利用の拡大に繋がり、農研機構の知名度の向上および社会貢献に寄与する。
  • 遺伝資源の利用拡大には、今後も、継続的なゲノム情報をはじめとした特性情報の付与が必要である。

具体的データ

表1 完全長ゲノムを公開している6菌株,図1 Pseudomonas allii MAFF 302050株の環状の完全長ゲノム,図2 得られたPseudomonas alliiのゲノム情報を使用して各菌株が持つ遺伝子グループ数を推定した解析例,図3 ゲノム情報を連携させたジーンバンク株

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(食料安全保障強化に向けた革新的新品種開発プロジェクト)
  • 研究期間 : 2023~2025年度
  • 研究担当者 : 高島勇介、内藤健、埋橋志穂美、山﨑福容、篠原弘亮(東京農大)、佐藤衛
  • 発表論文等 :