要約
塩害に極めて強いハマササゲでは、根の内皮に形成されるリグニン層がナトリウム不透過性のバリアとなり、地上部へのナトリウム流入が抑制されることが示唆された。この知見は、耐塩性品種開発の理論的基盤となる。
- キーワード : ハマササゲ、耐塩性、根、リグニン層
- 担当 : 基盤技術研究本部・遺伝資源研究センター・植物資源ユニット
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
土壌塩分は、農業生産の制約要因の一つとなっている。影響が深刻な国や地域では、塩害による水稲や豆類などの減収が最大で70%にも達する。したがって、食料安全保障の達成には作物の耐塩性の向上が不可欠である。
作物の耐塩性向上には塩害に強い植物の耐塩性機構の解明と応用が求められる。ハマササゲは陸上植物の中でも最も海寄りの植生を形成する種の一つであり、塩害に極めて強い性質をもつ。近縁種のナガバハマササゲには海岸型系統と河岸型系統の2種類が存在し、海岸型はハマササゲに次いて塩害に強い(ナガバハマササゲ(中))が、河岸型は塩害に弱い(ナガバハマササゲ(弱))。本研究では、ナガバハマササゲとの比較解析によってハマササゲの耐塩性機構を解明し、耐塩性作物の開発に資する理論的基盤を提供する。
成果の内容・特徴
- 塩処理下のハマササゲでは、根のカスパリー線形成に関わる遺伝子の発現量が増加する(図1)。カスパリー線はリグニンなどの疎水性物質が根の内皮の細胞間隙に蓄積したもので、水やイオンが植物体内に過剰に入り込むのを防ぐ役割を果たす。
- 塩処理下において、根の内皮に形成されるリグニン層は耐塩性のレベルに比例して厚くなる(図2)。
- リグニン合成が阻害されると、根のバリアが形成されず、地上部に多量のナトリウムが流入してしまう。その結果、ハマササゲの葉には塩ストレスによる傷害が発生する(図3)。
- 以上から、ハマササゲの耐塩性には根の内皮に形成されるリグニン層のバリアが重要で、これが地上部へのナトリウム流入を阻止することで葉を塩害から守る。
成果の活用面・留意点
- ハマササゲは海浜に自生し、非常に優れた耐塩性を有するため、その機構解明は、耐塩性品種の開発に有用な知見を提供するものである。
- カスパリー線形成やリグニン合成に関わる遺伝子の発現量は、根の内皮に形成されるバリアの発達度と正の相関を示す。しかし、バリア形成において最も重要な遺伝子の同定には至っていない。
- 他作物においてカスパリー線としてのバリアやリグニン形成関連遺伝子を過剰発現させる場合、発現量や発現組織を適切に制御する必要がある。適切でない場合、致死や極端な生育阻害が発生する可能性がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(ムーンショット型農林水産研究開発事業)
- 研究期間 : 2021~2024年度
- 研究担当者 : Wang Fanmiao、内藤健
- 発表論文等 : Wang F. et al. (2025) Plant Cell Physiol. 66:554-565
doi:10.1093/pcp/pcaf005