要約
鹿児島県による30年分のサトウキビ気象感応試験データを基に、機械学習により、種子島におけるサトウキビの茎伸長と気象要因との関係をモデル化する。構築したモデルに任意の気象データを入力すると日茎伸長量の予測値が得られ、これを積算することで仮茎長の推移を予測できる。
- キーワード : サトウキビ、機械学習、生育予測、仮茎長、気象データ
- 担当 : 基盤技術研究本部・農業情報研究センター・AI研究推進室・多変量解析ユニット
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
サトウキビは南西諸島の基幹作物であるが、台風や干ばつなど気象の影響を受けやすく、単収が不安定である。そこで、従来のロジスティック曲線等を用いた生育予測手法の適用が難しい8月中旬以前の早い段階で当年の生育良否を予測して、追肥や潅水など安定生産に向けた栽培管理の指針を提示するための技術開発を行う。本研究では、主要な収量構成要素の1つである仮茎長に着目し、鹿児島県農業開発総合センター熊毛支場が長期にわたり実施してきた気象感応試験のデータを基に、機械学習を用いて気象要因と茎伸長との関係をモデル化するとともに、任意の気象シナリオの下での仮茎長の推移を予測する。
成果の内容・特徴
- モデル作成に供した仮茎長データは、鹿児島県農業開発総合センター熊毛支場が種子島で1994~2023年度に実施した30年分の気象感応試験における春植え栽培の「農林8号」のデータであり、毎年6月1日から11月1日(または12月1日)まで概ね15日間隔で得られた実測値である。
- 同期間(1994~2023年)の気象データには、農研機構メッシュ農業気象データシステムおよび気象庁の過去の気象データ検索から取得できる日別値を用いる。
- 各年の仮茎長データを、有効積算温度を横軸とするゴンペルツ曲線で近似し、日平均気温を基に横軸を1日単位に変換することで、日々の差分から日茎伸長量を求める(図1)。これにより、気象データと茎伸長量を日単位で関連付けることが可能となり、データ量も15倍以上に増加する。なお、培土による仮茎長の見かけ上の減少は、培土時に仮茎長に10cm加算して補正する。また、種子島の慣行であるマルチ栽培の影響については、過去の調査結果を踏まえ、設置期間中の気温に3.3°Cを加算して対応する。
- 30年分のデータについて、予備検討として複数の学習対象年の組合せを評価すると、台風の多寡や強弱、気温の高低や降水量の多少などの点で特徴的な年を含む組合せは予測精度が比較的高い傾向にある。これを踏まえて、気象条件が特徴的と考えられる12年を選定し、気象データと植付後日数を説明変数、日茎伸長量を目的変数とする教師あり学習を行い、予測モデルを構築する。学習には複数の機械学習手法を用いることができるが、データ数が比較的少ない場合(数千~数万程度)の学習性能に優れるサポートベクター回帰を用いると予測精度が高い。説明変数に使用する気象要因は、気温(日平均・日最高・日最低)、有効積算温度(基準温度15.6°C)、日射量、日降水量、日照時間、相対湿度に加えて、過去3週間における日平均風速・日最大風速・日最大瞬間風速の各平均値である。
- 過去の風速平均値を用いる理由は、台風はサトウキビに対して葉身裂傷や倒伏等のダメージを与え、通過後も茎伸長に負の影響を及ぼす場合があるためである。その上で、過去3週間としたのは、サポートベクター回帰を用いた事例で、過去3週間の風速データの各平均値を使用した場合、各年の最終調査時の予測誤差率が非学習年(18年)で平均4.0%、学習年(12年)で4.4%、30年の全平均で4.2%と推定精度が総じて高く、さらに、台風の影響が大きかった年を含む学習年における予測精度が比較的高いことから汎用性に優れると判断されるためである(表1)。
- 構築した予測モデルに任意の年の気象データと植え付け日を入力すると日茎伸長量の予測値が得られ、これを積算することで仮茎長の推移を予測できる(図2)。
- 栽培期間中の任意の時点で、それ以降の仮の気象データとして過去30年(30パターン)の気象データを入力することにより、過去の気象の年次変動の範囲内において、その後の仮茎長がどのように推移し得るかを予測できる。図3に2024年における予測事例を示す。
成果の活用面・留意点
- 種子島の普及組織や製糖企業担当者による生産者への栽培指導および情報提供に活用できる。
- 本研究では種子島における春植え栽培の「農林8号」を対象としたが、他の普及品種や作型(株出し栽培、夏植え栽培)の場合も、同様の方法で予測モデルを構築できる。なお、九州沖縄農業研究センターによる生産力検定試験の「農林18号」および「農林22号」のデータを用いて予測モデルを構築する場合、7年分程度のデータを学習することで本研究と同等の予測精度が得られる。
- 本モデルは種子島における適切な栽培管理・土壌条件の下で生育したサトウキビで調査した気象感応試験データに基づくものであり、多様な条件下にある生産者圃場を対象として予測を行う場合は、新たなモデルの構築が必要となる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2023~2025年度
- 研究担当者 : 服部太一朗、小谷野仁
- 発表論文等 : 服部、小谷野、特願(2025年5月7日)