要約
車両搭載カメラ画像を用いた深層学習(AI)による種ばれいしょ異常株検出システムで、日除けの下にカメラを設置することにより、天候によらず安定して高解像度の撮影および異常株検出が可能である。これまで熟練者により時間をかけて異常株を判別していた作業負担の軽減が期待される。
- キーワード : 異常株検出、深層学習、画像、異常株の位置、自動データ収集
- 担当 : 基盤技術研究本部・農業情報研究センター・AI研究推進室・画像認識ユニット
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
病気に感染した異常株などを抜き取る作業は、健全な種ばれいしょ生産に不可欠な作業だが、罹病の有無を的確に判定できる経験者の不足や、広大なほ場から異常株を搬出する労力の確保が課題となっており、異常株の判定を技術的に支援しつつ軽労化を図る支援システムが求められている。
そこで本研究では、生産現場のニーズを反映し、準リアルタイムで異常株を自動検出してユーザに音やライトで報知する、AIを活用した種ばれいしょ異常株検出支援システムを開発する。
成果の内容・特徴
- 本システムは、カメラ・処理装置・結果出力装置、GNSS(全球測位衛星システム)受信機、日除けと、それらを搭載する車両によって構成される(図1)。カメラに異常株が写ると音やライトで報知するとともに、出力結果などをモニタに表示する。さらに、現在位置と異常株の距離を表示できるため、異常株を誰でも容易に特定可能である。
- 処理装置では、カメラで撮影した画像に異常株または異常葉が含まれるかを判定する。時速4kmで走行する車両に搭載した6台のカメラ画像を準リアルタイム処理できるよう高速化したアルゴリズムを利用している。
- GNSS受信機は、RTK(Real Time Kinematic)もしくはみちびき衛星のCLAS(センチメータ級測位補強サービス)を使用し、株を特定できる位置精度で異常株検出位置及び現在位置を記録すると共に、その相対位置を計算するのに用いる。
- 日除けを設置することで、日光が葉の表面で反射することによる白とびや、株の影の影響などを軽減し、天候によらず使用可能である。
- 対象品種は「トヨシロ」「コナヒメ」「キタアカリ」で国内生産の3割以上をカバーする。
- 生育初期の検出対象は、重度な遅れ、モザイク・れん葉、萎れ。生育中期の検出対象は、モザイク・れん葉、黄化・壊疽、萎れである。ただし干ばつの際、生育中期において健全株であっても萎れることから、軽微な萎れを健全と分類できるAIモデルも作製している。熟練者でないと判断が難しい軽微な病徴も対象にしていることが特徴である(図2)。
- 農研機構種苗管理センターの抜取り作業に熟練した職員がAI学習用データを作製することで、熟練者による異常株判別レベルのAIを作製している。作業期間中における延べ4回の検出によって、植物防疫法で定められた罹病株の抜き残し0.1%以内を満たすために設定した「1回あたり検出精度83%」の目標に対し、生育初期、生育中期ともに目標検出精度を達成している。
- 従来は、熟練者が歩きながら2畦ごとに目視判定していたが、本システムでは自走しながら最大6畦の異常株を検出(作業効率3倍)し、抜き取りのため追従している作業者に音や光、画像によって通知する。また、ユーザが使いやすいGUI(Graphical User Interface)も開発している(図3)。
- 継続的なAIモデル改良のため、ユーザに使用してもらいながらAI学習用データに使える画像を収集する仕組みを有する。システムを利用し異常株が検出された、もしくはユーザが「保存ボタン」を押すと自動で撮影画像とは別のフォルダに画像が保存される仕組みを備える。システム利用後、クラウドサーバにアップし、AIモデルの改善に利用可能である。
- 種いも運搬車両搭載型以外にも電動乗用カートを開発した。電動乗用カートの日除け・カメラと座席は、ばれいしょ株の生育に応じて高さを可変できる。左右後輪を独立駆動させることで走破性を高めている(図4)。
成果の活用面・留意点
- 現在の対象品種は「トヨシロ」「コナヒメ」「キタアカリ」で、それ以外の品種の分類精度については未検討である。適用品種の拡大については今後、計画的に対応する。
- 2021~2023年度に試験ほ場で汎用カメラを用いて撮影した画像を使ってAIモデルの学習およびテストをした結果、生育初期・中期ともに異常株の検出精度は95%以上である。持続可能なシステム運用のため、2024年度から産業用カメラに変更し、同年度に試験ほ場で撮影した画像を追加し、同様の解析をした結果、異常株の検出精度は生育初期86%、生育中期91%である。同AIモデルを2025年度、生育中期に北農研の試験ほ場の「トヨシロ」品種に適用したところ、異常株の検出精度は78%である。今後、産業用カメラの画像枚数を増やすことで改善が見込まれるが、他の年のデータや、異なるほ場のデータを用いた場合には精度が低下する可能性がある。
- 本成果は、原原種ほで利用することを想定したシステムである。
- 開発システムの持続可能な改良・普及・運用するための体制作りが不可欠である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業、戦略的スマート農業技術等の開発・改良)
- 研究期間 : 2019~2025年度
- 研究担当者 : 大石優、大木健広、山本一哉(シブヤ精機)、小林華代子、小林恵、津田昌吾、前塚研二(十勝農協連)、村上則幸
- 発表論文等 : 大石(2025)農研機構技報、17:10-13