高アミロース米を用いたミキサー・ゲル化剤不要の介護食用米粉

要約

高アミロース米でんぷんのゲル化特性を利用することで、米粉に水を加えてガス火、電子レンジ、スチームコンベクションオーブンなどを用いて加熱後に冷却するだけで、簡便に介護食の粥ゼリーを調理することが可能になる。

  • キーワード : 介護食、高アミロース米、米粉
  • 担当 : 食品研究部門・食品健康機能研究領域・ヘルスケア食グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

加齢に伴って様々な機能が低下するが、生きるために必要な食べる機能も低下する。日本では高齢化が進み、病院や介護施設、在宅介護の食事提供の場面で、食べる機能の低下に配慮して調製した介護食のニーズが高まっている。介護食においても主食は重要であるが、米は粒状で飲み込みにくいことから、粥を炊いて粘りを防ぐための酵素を加えてからミキサーにかけ、ゲル化剤を加えて固める手間が必要となり、調理の簡便化が求められている。
農研機構では、高アミロース米と呼ばれ、でんぷん中のアミロースという成分が多い品種の米粉から、軟らかくて付着性の低いゼリー状のゲルが得られることを見出している。本研究では、高アミロース米を原材料として、介護食の粥ゼリーを簡便に調理できる介護食用米粉を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本米粉は、高アミロース米でんぷんのゲル化特性を利用している。でんぷん中のアミロース含有率が25%以上の米粉は、水を加えて充分に加熱して糊化させた後冷却すると、溶出したアミロースがネットワークを形成してゲル化する(図1)。
  • 本米粉は、でんぷんの特性の異なる品種をブレンドすることで、水に溶いてから熱湯を加える操作によってとろみを持たせることが可能で、ガス火のほか、電子レンジやスチームコンベクションオーブンなど加熱中に撹拌できない熱源でも調理を行うことが可能である(図2)。
  • 本米粉を使用した粥ゼリーは、冷たい状態(4°C)、常温(24°C)、温かい状態(45°C)、熱い状態(75°C)のいずれの温度でも、硬さが舌でつぶせる目安である20,000 N/m2よりも小さく、適度なまとまり(凝集性)を示し、かつ付着性が1,000 J/m3よりも小さく食べやすい物性を示す(表1)。
  • 本米粉は1 kg入のパッケージで市販化している(図3)。製品価格は、一食20 g当たり約30円で、インスタント粥ゼリーの既製品(一食当たり40~240円)よりも安価である。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 病院、介護施設、在宅介護、介護食提供レストランなど。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国。1年目480 kg(2万4千食)生産予定。
  • その他 : 製品は全国病院用食材卸売業協同組合および左記加盟会社による通信販売Webサイトから購入可能。召し上がる方の健康状態に応じて、専門の医師、管理栄養士、言語聴覚士にご相談の上ご使用ください。口腔内で溜め込むと、離水が生じるため、ご利用者様の状況を考慮してご使用ください。

具体的データ

図1 高アミロース米でんぷんの糊化とゲル化,図2 調理方法の例,図3 商品パッケージ,表1 各温度における粥ゼリーの物性

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)
  • 研究期間 : 2019~2022年度
  • 研究担当者 : 芦田かなえ、藤谷順子(国立国際医療研究セ)、本川佳子(東京都健康長寿医療研究セ)、坪川操(福井大病院)、西村一弘(駒沢女子大)、藤原恵子(緑風荘病院)、図司一智(図司穀粉)、竹内祐也(フードケア)
  • 発表論文等 :
    • 芦田(2022)食と医療、23:14-18
    • Tsubokawa M. et al. (2022) Dysphagia. DOI: 10.1007/s00455-022-10529-y
    • 芦田ら、特願(2021年11月18日)
    • 芦田ら(2023)日摂食嚥下リハ会誌、27:44-52