実験動物におけるγ-ポリグルタミン酸の免疫グロブリンA分泌増強作用

要約

γ-ポリグルタミン酸(γ-PGA)は納豆の粘りの主成分である。これを含む食品等は、実験動物(DO11.10マウス)において腸管粘膜面における免疫グロブリンA(IgA)量を増加、あるいは加齢に伴う低下を抑制したため、ヒトへの活用が期待される。

  • キーワード : 食品機能、免疫グロブリンA、γ-ポリグルタミン酸、自然免疫
  • 担当 : 食品研究部門・食品健康機能研究領域・健康・感覚機能グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

今般のコロナ禍を契機として、免疫機能の維持・向上に資する食品に国民の関心がいっそう高まっており、これまでの免疫機能にかかる機能性表示食品の売り上げ拡大からも、そのニーズの高さが伺える。
免疫系には、従来から知られる感染経験による免疫記憶に基づく獲得免疫系の他、近年発見された自然免疫系がある。自然免疫は、獲得免疫と異なり細菌やウイルスなどを個別にではなく異物として大まかに認識することで感染経験の無い異物も排除できる。外界と直接接する粘膜で常時分泌される分泌型免疫グロブリンA(SIgA)は自然免疫と獲得免疫双方に関わり、病原体の侵入を防ぎ、特に腸管では腸内環境の安定に資することが明らかとなっている。実際、SIgA量低下で上気道感染症などの発症リスクが高くなることが報告されている。
農研機構は、特定抗原のみに免疫が応答するマウスで自然免疫に係る糞便SIgA量の加齢に伴う減少を低コストで安定評価できる動物試験法を確立、出願した(特許第7287665号「試験物質の抗老化機能の評価方法」)。本法により食品などの免疫調節機能を評価可能と考え、本研究では免疫機能向上が確認されながら機序が不詳の納豆を対象とし、納豆の粘り成分であるγ- PGAをマウスに経口投与し、SIgA量に及ぼす影響を明らかにすることとした。

成果の内容・特徴

  • 卵白アルブミンのみに応答するDO11.10マウス(16週齢、雌) に1% (w/w) γ- PGA水溶液を12週間自由摂取させ、粘膜面のSIgA量の指標とされる糞便SIgA量を2週間毎に測定する。
  • 投与試験開始から2週目、4週目、10週目で、γ- PGA投与群の糞便SIgA量は、水投与群と比較して、有意に高い(図1)。このように、γ- PGAは粘膜面のSIgA量を増加させることが期待される。
  • 水投与群では、投与試験開始前と比較して、投与試験終了後(12週目)に糞便IgA量が有意に低下するが、γ- PGA投与群では、投与試験前後で糞便SIgA量は低下しない(図2)。このように、γ- PGAは加齢に伴う粘膜面のSIgA量低下を抑制することが期待される。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は実験動物によるものであり、ヒトでのさらなる検証が重要である。
  • 本成果に基づく特許を活用してIgA分泌増強作用を有する食品が開発される。

具体的データ

図1 糞便中IgA量の推移,図2 投与開始前後の糞便中IgA量の比較

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業:健康寿命延伸に向けた食品・食生活実現プロジェクト)
  • 研究期間 : 2021~2022年度
  • 研究担当者 : 若木学、後藤真生、田村基、庄司俊彦、髙山喜晴、小堀俊郎
  • 発表論文等 : 若木ら、特願(2022年8月18日)