米粉100 %パンには登熟中の気温が低い条件で栽培された米が適する

要約

「ミズホチカラ」は米粉100 %パン(増粘剤等を含まない米粉パン)に適する品種であるが、パンの品質は登熟中の気温により影響を受ける。登熟気温が低い方が米粉パンの膨らみに優れ、貯蔵中に硬くなりにくい。これは登熟気温によりデンプンの性質が変化するためである。

  • キーワード : 米粉100 %パン、グルテンフリー、登熟気温、デンプン、アミロース
  • 担当 : 食品研究部門・食品加工・素材研究領域・食品加工グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

水稲品種「ミズホチカラ」は、グルテンや増粘剤を含まない米粉パン(米粉100 %パン)に適しており、一般的な品種を用いた時と比べてパンの膨らみに優れる。この高い製パン特性は「ミズホチカラ」の持つ高いアミロース含量に起因することが知られている。米粉用米の生産の拡大に伴い、今後、様々な作期で栽培される可能性があるが、登熟中の気温がアミロース含量やアミロペクチンの構造に影響を及ぼすことは知られていることから、登熟気温により加工適性が変化することが予想される。そこで、本研究では「ミズホチカラ」と主食用品種である「ヒノヒカリ」を、移植時期を3回に分けて栽培することで出穂日をずらし、登熟気温を変化させた試料を得て、登熟気温と米粉100 %パンの膨らみや硬さとの関係を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • いずれの品種も、5月移植(登熟気温:約30 °C)で栽培した米を用いて作られた米粉パンは、膨らみに劣る(図1)。「ヒノヒカリ」は移植時期が遅い条件でも、パンの膨らみは通常の栽培条件(6月移植)の「ミズホチカラ」のパンより劣る。
  • いずれの品種も登熟気温(開花後20日の平均気温)とパンの比容積(1 gあたりの体積)との間には有意な負の相関がある(図2A)。登熟気温とアミロース含量との間には有意な負の相関があること(図表省略)、アミロース含量とパンの比容積との間には有意な正の相関があることから(図2B)、パンの比容積が登熟気温によって異なる要因は、アミロース含量によるものと考えられる。
  • 登熟気温とパンの硬さとの間、デンプンの糊化温度とパンの硬さとの間には有意な正の相関がある(図3)。登熟気温とアミロペクチンの短い側鎖の割合、アミロペクチンの短鎖割合とパンの硬さとの間にはいずれも有意な負の相関があることから(図表省略)、アミロペクチンが関与していることを示唆する。
  • タンパク質含量はパンの比容積や硬さと有意な相関がないことから(図表省略)、米のタンパク質含量は米粉100 %パンの品質に与える影響は大きくない。

成果の活用面・留意点

  • 今後、複数の栽培地におけるデータ等を蓄積することで、登熟気温により米粉100 %パンの加工適性を予測できる可能性がある。
  • 品種や栽培条件が分からない米粉でも、アミロース含量と糊化温度の測定により、米粉100 %パンへの適性が予測できる。
  • 低すぎる登熟気温は米の登熟不良と米粉加工品の品質劣化をもたらすため、極端な晩植は避ける必要がある。

具体的データ

図1 栽培条件の違いによる米粉パンの形状の違い,図2 パン比容積と、登熟気温やアミロース含量との相関,図3 パンの硬さと、登熟気温や糊化温度との相関

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2021~2022年度
  • 研究担当者 : 青木法明、岡見翠、中野洋
  • 発表論文等 : Aoki N. et al. (2022) J. Cereal Sci. 107:103522