澱粉と脂肪酸を原料としたエコフレンドリーなアスファルト添加剤

要約

澱粉と脂肪酸を原料として合成したC-AGは、アスファルト中で繊維状に分散し、アスファルトの耐流動性を向上させる。また、従来のアスファルト改質剤と比べ、改質アスファルト製造や道路施工に関連するエネルギー消費量が低く、温室効果ガスの排出抑制が期待できる。

  • キーワード : 澱粉、脂肪酸、1,5-アンヒドログルシトール、アスファルト改質剤、耐流動性
  • 担当 : 食品研究部門・食品加工・素材研究領域・バイオ素材開発グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

澱粉は米やトウモロコシなどに豊富に含まれる物質で、私たちの重要な栄養源であるとともに、優れた再生可能資源でもある。澱粉はこれまでにも繊維や製紙分野で活用されているが、その他の分野においても化石資源に代わる素材として注目を集めている。我々は、澱粉から酵素反応により得られる1,5-アンヒドログルシトールと脂肪酸を反応させ合成した物質C-AGが、様々な有機溶媒を増粘して耐流動性を高めたり、固めたりする効果をもつオイルゲル化剤であることを明らかにしている。一方、道路舗装に使われるアスファルトは、夏季に路面温度が上昇すると柔らかくなり、流動性が高くなるが、そのような状態で車が通行すると路面に凸凹のわだち掘れができ、道路の修繕が必要となる。そのため、夏季路面温度付近でアスファルトの耐流動性を向上させ、かつ、環境にやさしい新規アスファルト改質剤の開発が求められている。本研究では、澱粉と脂肪酸を原料としたエコフレンドリーなオイルゲル化剤C-AGをアスファルト改質剤として応用すること目的とする。

成果の内容・特徴

  • オイルゲル化剤C-AGは、澱粉から酵素反応により得られる1,5-アンヒドログルシトールと脂肪酸をカップリングすることにより、高収率で大量に合成することができる(図1)。
  • C-AGは130°Cでアスファルトへ容易に溶解し、冷えると自発的に繊維を形成してアスファルト中に分散する(図2)。レオロジー測定により、C-AGを添加したアスファルトは、60°C付近でも市販のアスファルト改質剤を添加したアスファルトと同程度の耐流動性を示す。
  • 舗装道路は、骨材(石や砂)をアスファルトで接着したものである。骨材と同じ材質であるガラス玉を用いた模擬試験では、骨材接着においても、C-AG添加によるアスファルトの耐流動性向上が確認される。
  • アスファルトに比べて耐流動性が向上したC-AG改質アスファルトを道路舗装に利用すると、道路が丈夫になり、真夏でもわだち掘れができにくくなるため、道路の長寿命化に貢献できるものと考えられる。
  • 石油由来ポリマーを改質剤として添加したポリマー改質アスファルトは、製造に180°C前後の高温が必要だが、C-AG改質アスファルトは130°C以下で製造できる。この低温化により、ポリマー改質アスファルトを使用した場合と比べてCO2で15~40%程度、温室効果ガスの排出量削減や、エネルギー消費量を60~80%に抑制できると期待される(参考文献:M.Carmen Rubio et al, Journal of Cleaner Production(2012) 24:76-84)。

成果の活用面・留意点

  • C-AGの大量製造法の開発および製造コストの削減を行う必要がある。
  • 今後、C-AG添加アスファルトの耐候性・耐久性など実使用条件下での試験を行う予定である。
  • C-AGの分子構造をチューニングすることにより、C-AG添加アスファルトの物性を制御できる可能性がある。

具体的データ

図1 C-AGの構造および外観,図2 C-AG添加アスファルトおよびアスファルトの原子間力顕微鏡像(2 μm×2 μm)

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(研究成果展開事業)
  • 研究期間 : 2020~2022年度
  • 研究担当者 : 岩浦里愛、今場司朗
  • 発表論文等 :
    • Kajiki T. et al,(2020)ChemPlusChem、85:701-710
    • Iwaura R.and Komba S.(2022) ACS Sus. Chem. Eng. 10:7747-7752
    • 岩浦、特願(2022年10月3日)