SDS-PAGEによるパスタの原料小麦の産地推定

要約

パスタ及び原料小麦から抽出したタンパク質をドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供することで、デュラム小麦品種間のタンパク質組成の差異から、パスタの原料小麦の産地を推定できる可能性がある。

  • キーワード : 小麦、加工食品、グルテニン、電気泳動、産地判別
  • 担当 : 食品研究部門・食品流通・安全研究領域・食品安全・信頼グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

2017年9月1日に食品表示基準が改正され、新たな加工食品の原料原産地表示制度が開始となった。国内で製造または加工されたすべての加工食品に対し、原料原産地表示が義務付けられている。したがって、生鮮品のみならず加工食品についても、食品表示のための検査技術の開発が求められている。産地判別における主な分析法には①微量無機元素分析、②DNA分析、③安定同位体比分析、がある。これらの分析法を加工食品に応用する場合、①微量無機元素には加工工程に伴い流出入がある、②DNAは加工時の熱による変性を受ける場合がある、のような問題がある。③安定同位体比については加工による影響を受けにくく、加工食品の産地判別技術に応用されているが、高額な機器や専門知識を必要とする。
小麦タンパク質の一部であるグルテニン画分をSDS-PAGEにより分離した際に観察されるバンドパターンは、品種固有の特徴を有することから、小麦粉の品種判別技術に利用されている。本研究では、国産、カナダ産、及びトルコ産のデュラム・セモリナ及びそれらから作製したパスタについて、SDS-PAGEによるパスタの原料小麦の産地推定の可能性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 国産、カナダ産、及びトルコ産のデュラム・セモリナ及びパスタからグルテニン画分を抽出し、SDS-PAGEにより分離したのち、Coomassie Brilliant Blue(CBB)染色により可視化する。パスタのグルテニン画分のバンドパターンはデュラム・セモリナのグルテニン画分のバンドパターンと同等である(図1)。このことは、パスタの加工工程がグルテニン画分中のタンパク質群の組成に与える影響は小さいことを示す。
  • デュラム・セモリナ及びパスタのグルテニン画分のSDS-PAGE後のCBB染色像において、国産は40 kD付近に、トルコ産は110 kD付近に特徴的なバンドを示す(図2)。このように、デュラム・セモリナ及びパスタの簡便な原料原産地判別手法として、SDS-PAGEが使用できる可能性がある。

成果の活用面・留意点

  • デュラム・セモリナ及びその加工食品から抽出したグルテニン画分に含まれるタンパク質の組成の比較は、原料小麦の産地推定に使用できる可能性がある。
  • 本成果で使用した国産材料は1点のみであり、サンプルの数を増やして検証を重ねる必要がある。
  • 本成果で使用したサンプル以外の地域のサンプルについては、別途検証する必要がある。
  • サンプルのタンパク質組成は栽培の影響を受ける可能性があることから、年次変化による検証が必要である。

具体的データ

図1 トルコ産(a)及びカナダ産(b)デュラム・セモリナ及びパスタから抽出したグルテニン画分のSDS-PAGE後のCBB染色像,図2 デュラム・セモリナ(a)及びパスタ(b)から抽出したグルテニン画分のSDS-PAGE後のCBB染色像

その他

  • 予算区分 : 交付金、民間資金等(資金提供型共同研究)
  • 研究期間 : 2020-2021年度
  • 研究担当者 : 佐藤里絵、三浦雄也(株式会社日清製粉グループ本社)、飯島賢(株式会社日清製粉グループ本社)、山川宏人(株式会社日清製粉グループ本社)、中本悠貴(株式会社ニップン)、原田義孝(株式会社ニップン)、平尾栄志(株式会社ニップン)、鈴木彌生子
  • 発表論文等 : 三浦ら(2022)分析化学、71:645-651