新規カロテノイド抗体の作製

要約

カロテノイドの1種であるルテインの新規抗体を作製する。この抗体を使ったELISA法は一般的なHPLC法と異なり、高額機器や有機溶媒は不要であり、マイクロプレートリーダーで多検体を迅速に測定できる。野菜中ルテインや血中ルテイン濃度の測定への応用が期待できる。

  • キーワード : ELISA、カロテノイド、抗体、野菜、ルテイン
  • 担当 : 食品研究部門・食品健康機能研究領域・健康・感覚機能グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

カロテノイドの1種であるルテインはヒトの網膜に特異的に蓄積され、光による刺激から目を保護する機能等が報告されている。日本人はホウレンソウ等の野菜からルテインを多く摂取している。一般にルテインの分析にはHPLCが用いられるが、HPLCは高額であり、移動相に有機溶媒を使う等、使用においてはハードルが高く、誰にでも簡単にルテインを測定できるものではない。本研究では、ルテイン抗体を新たに作製し、これを用いてELISA法を開発することで、誰にでも簡単に迅速多検体でルテインの定量を可能とする。ELISA法を使って、野菜中や血中のルテインも測定できる可能性があり、網膜黄斑変性症の血中マーカー測定キットとしての潜在力を有する。

成果の内容・特徴

  • ルテインはタンパク質やペプチドと異なり、脂溶性の低分子成分であることから抗原の作製が必要である。そこで、ルテインの有するOH基にコハク酸をリンカーとして導入する。OH基は2つあるので有機合成では3種類の誘導体が生成するが、精製して片方のOH基がフリーな2種類の誘導体1:1混合物を得て抗原とする(図1)。
  • 抗原にキャリアタンパクを結合させ、ウサギ3匹に8週間に渡って免疫を行った結果、力価は低分子成分としては十分高い25600まで上昇する(図2)。血清を採取後、抗原カラムを用いて特異精製して得た抗ルテイン抗体を測定に用いる。
  • ヒト血中に存在するカロテノイド6種類(標品)に対する抗体の特異性を競合法により調べた結果、阻害率は、ルテイン53.0 %、ゼアキサンチン9.9 %、β-クリプトキサンチン5.7 %、リコペン0 %、α-カロテン0 %、β-カロテン10.8 %、となり、ルテインと構造が近いためHPLCでも分離が困難(C30カラムが必要)なゼアキサンチンとも区別できる可能性がある(表1)。
  • 作製した抗ルテイン抗体は、ルテイン濃度500μg/mL-0.5μg/mLの間で競合法が成立し、競合時間30分で十分な反応があることから(図3)、これを用いて定量分析が可能な96wellを使ったELISAキットを作製する。HPLC装置や移動相(有機溶媒)を使うことなく、マイクロプレートリーダーで測定が可能である。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で作製した抗ルテイン抗体は、ルテイン濃度測定用としてELISA法に適用するが、免疫染色法にも使える可能性がある。
  • ホウレンソウ中のルテインはフリー体で存在するが、カボチャのようにルテインが脂肪酸エステルとして存在する場合は、これを抗体が認識するかどうかは未検討である。
  • 血中ルテインは網膜黄斑変性症のマーカーとなる可能性があることから、臨床検査での利用が期待できる。

具体的データ

図1 抗原の調製スキーム,図2 ウサギポリクロナール抗体の力価,表1 抗体の特異性,図3  競合ELISA法

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業:健康寿命延伸に向けた食品・食生活実現プロジェクト)
  • 研究期間 : 2021~2023年度
  • 研究担当者 : 小竹英一、今場司朗
  • 発表論文等 : 小竹ら「ルテインを検出する方法及び抗ルテイン抗体を作製する方法」特開2025-132148(2025年9月10日)