農産物由来3Dプリント食品の安定成形と特性評価

要約

3Dフードプリンターを用いて農産物由来ペーストを安定的に成形可能な基本条件は、ペーストの見かけ粘度および降伏応力である。また、成形物の複合構造に依存して食感が軟らかくなる。本研究の成果により、栄養組成と食感が同時に制御された新たな農産物由来食品の作製が期待できる。

  • キーワード : 3Dフードプリンター、農産物由来ペースト、3D成形性、構造、食感
  • 担当 : 食品研究部門・食品加工・素材研究領域・食品加工グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

3Dフードプリンターは、複雑な構造をカスタマイズして成形可能とする新しい食品加工機械である。未利用農産物もペースト状にして3D成形することができるため、フードロス削減の手段としても期待されている。3Dプリント食品の組成・構造を自在に制御することができれば、目的に応じて栄養組成と食感を制御した、新たな農産物由来食品の作製に繋がる。本研究では、農産物由来ペーストを3Dフードプリンターで安定成形するための基本条件を明らかにし、3Dプリント食品の組成・構造が食感に与える影響を評価する。

成果の内容・特徴

  • 代表的な農産物の一つであるカボチャのフレークに水を加えたペーストを3Dフードプリンターで成形すると、フレーク含量が一定の範囲内で成形が安定化する (図1)。フレーク含量が安定領域を下回るペーストは、成形後の自重に耐え切れずに扁平化する。フレーク含量が安定領域を上回るペーストは、ペーストをプリンターのノズルから押出すことが困難になる。
  • カボチャペーストの見かけ粘度とプリンターノズルの内圧とのバランスが、ノズルからの押出安定性(押出の可否)に重要な影響を及ぼす(図2左)。また、ペーストの降伏応力と3Dプリント食品にかかる自重とのバランスによって、形状安定性(扁平化の有無)が決まる(図2右)。
  • 上記1、2の安定成形に係る知見を集約することで、2種類の農産物(きな粉およびキャベツ粉)に水を加えたペーストを複合させ、多様な構造を有する"複合3Dプリント食品"を、作製可能になる(図3)。きな粉ペーストはタンパク源として、キャベツ粉ペーストは食感を軟らかくするために用いる。当該複合3Dプリント食品は、3D成形後および焼成後においても、外形および内部構造が比較的安定している。
  • 複合3Dプリント食品について、テクスチャーアナライザーを用いて食感を評価すると、構造に依存して食感が変化することがわかる(図4)。特に一部の構造では、きな粉とキャベツ粉の組成比が同一又はキャベツ粉の組成比が小さいにも関わらず、軟らかな食感となる。これは、栄養組成を変えずに構造のみで食感を制御できる可能性を示唆している。

成果の活用面・留意点

  • 3Dプリント食品の安定成形のための基本条件が明らかになり、多様な食材種に対応した3D成形が可能になると期待される。
  • 3Dフードプリンターを用いて、栄養組成と食感を同時に設計・制御できる可能性がある。これは例えば、必要な栄養成分含量は高く保ちつつ、高齢者でも軟らかく食べやすい新たな食品を作製することに繋がると期待される。
  • 本成果で用いた3Dフードプリンターはスクリュー式であり、プリンターの方式が異なる場合には安定成形のための条件範囲等が異なる可能性がある点に留意が必要である。
  • 作製した3Dプリント食品の官能評価は未検討であり、食感については今後の更なる知見の集積が必要となる。

具体的データ

図1 フレーク含量が異なるカボチャペーストの3Dプリント食品,図2 3D成形における押出安定性および形状安定性の解析,図3 安定的に作製された複合3Dプリント食品,図4 テクスチャーアナライザーによる複合3Dプリント食品の食感評価

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(ムーンショット型農林水産研究開発事業)
  • 研究期間 : 2020~2023年度
  • 研究担当者 : 神津博幸、梅田拓洋、小林功
  • 発表論文等 :
    • Umeda T. et al. (2024) Food Bioproc. Tech. 17: 188-204
    • Kozu H. et al. (2024) J. Food Eng. 360: 111720