要約
牛モモ肉のレモン果汁による加熱調理時に生じる肉の構造変化はマリネ調理により抑制され、より小さな力で破断される。ヒト胃消化シミュレーターによる消化試験では、レモン果汁によるマリネ調理では、2 mmより大きい未消化画分が対照区に対して25%減少する。
- キーワード : 消化、マリネ調理、レモン、肉質、胃ぜん動運動
- 担当 : 食品研究部門・食品加工・素材研究領域・食品加工グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
レモンには、クエン酸、ビタミンC、ポリフェノールが豊富に含まれており、これらの健康機能への注目が高まっている。近年、レモンを調理や飲用に使用する機会が増えており、レモンを日常的に摂取する人も増加傾向にある。しかし、レモン果汁を調理に用いた際の食材の変化、およびレモン果汁を添加して調理した食事を摂った際の栄養成分の消化・吸収に関する学術的な知見は少ないのが現状である。本研究では、ヒト胃消化シミュレーター(GDS, Gastric Digestion Simulator)を用いて、レモン果汁によるマリネ調理が牛モモ肉の肉質および胃内消化に及ぼす影響を明らかにする。
成果の内容・特徴
- スライスした牛モモ肉の光学顕微鏡画像において、マリネ調理を行わないコントロール群の場合に、加熱調理後に筋細胞の収縮および細胞外への肉汁漏出が認められる(図1)。一方、レモン果汁によるマリネ調理を行ったLem100群では、これらの現象が緩和されており(図1)、加熱調理時に生じる肉の構造変化が抑制されていることが示されている。
- 牛モモ肉のスライス試料を一軸圧縮した際にかかる荷重は、コントロール群と比べてLem100群の方が小さい(図2)。この結果より、Lem100群はコントロール群よりも小さな力で破断することが明らかとなり、マリネ調理が軟化に影響することを示唆している。
- 加熱調理した牛モモ肉のスライス(厚さ:4 mm)を切り揃えることにより、粒状の牛モモ肉試料(幅・奥行:5 mm)を作製する。粒状の牛モモ肉試料(コントロール群、Lem100群)を用いて定量的なぜん動運動を備えるGDSによる胃内消化試験を3時間行い、試験後に胃消化物を分級する。ヒトの体内では、胃消化物は十二指腸および小腸でさらに消化されるため、胃消化物が胃の出口である幽門を通過する必要がある。幽門(直径約2 mm)よりも大きい網目(2.36 mm、3.35 mmを使用)のふるいを使用して、レモン果汁によるマリネ調理の有無が胃消化物の粒径に及ぼす影響を検討したところ、Lem100群ではふるいに阻止された未消化画分が約25%減少(乾燥重量基準)していることが分かる(図3)。これは、Lem100群の方が物理的な消化が進んでいる可能性を示している。
成果の活用面・留意点
- 定量的なぜん動運動を備えるGDSを用いることにより、多様な食肉の調理に関する方法および条件が胃内消化に及ぼす影響を多角的に評価可能になると期待される。
- 牛モモ肉試料を含む胃消化物を用いた小腸内消化試験については未検討であり、今後の知見の集積が必要となる。
- 日常の食生活においては、多様な食肉および調味料を用いており、これらの影響について検討する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、民間資金等(資金提供型共同研究)
- 研究期間 : 2021~2023年度
- 研究担当者 : 小林功、脇田義久(ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社)、高橋真弓、田宮慎理(ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社)
- 発表論文等 :
Wakita Y. et al. (2023) J. Sci. Food Agri. 104: 809-817